2015年09月01日

ふたつの顔を持つ少年

 ナチから逃れ、ゲットーを脱出した8歳のユダヤ人少年スルリックは、森のなかで同じ境遇の子供たちと暮らすが、ドイツ兵に追われて一人になる。冬になり、雪原をさまよった末、パルチザンの家族を待つポーランド人女性に助けられた彼は、ユレク・スタニャンという名のポーランド人孤児としての偽りの身の上話と、キリスト教徒としてのふるまいを教えられる。だが、そこにもゲシュタポが近づき、夫人のもとを離れたユレクは、次の居場所を求めて旅をするのだった。

 冒頭、上着を盗んで捕まりそうになりながら、吹きすさぶ雪のなかを歩くだけでも、すごいサバイバル。ゲットーを出る場面では、もぐり込んだ荷馬車に、ナチが銃剣を何度も突き刺す。森での生活は、一緒に食べ物を盗んで仲間が捕まっても、見捨てて走り続けなければならない。一瞬の判断で生き延びるユレク。そんななか、夫人や、少年の存在を黙っている荷馬車の男など、心ある大人が彼を助けてくれた。あの時代に、ユダヤ人を助けることにどれほどの勇気がいったか、はかり知れない。悪に覆われたなかでも、良心の人々はいたのだ。
 農家に気に入られてしばらく過ごした時、遊んでいる時に近所の子供に割礼をはやされて、そこにいられなくなる。ポーランド人だと思って受け入れた家族だが、彼がユダヤ人だと分かったあとも、追い出すのではなく、逃がしたのだ。

 だが、親切な顔をして、金のためにユダヤ人を差し出す者も。ゲシュタポに引き渡されて、絶体絶命の場面、ユレクは、勇気と知恵で、一瞬の運をつかんで逃走。銃と犬による森での追撃も逃れて生き延びる。その後も試練は続き、大きな農場で働き始めるも、脱穀機に腕をはさまれる事故。ユダヤ人だからと手術を拒否されるが、翌日別の医者が執刀し、命を取り留める。たが、最初の医者が放置したことで、右手を失った。
 そして、手術を拒否した医者の密告でナチに追われるも、またしても、同室の老人や、農場の先輩や、見知らぬ船頭たちの助けにより、逃げ切るのだった。
 病院から連れ出してくれた男は、見つかれば自分も危ないのに、命がけで良心に従った行動をとる。

 たった一人の小さな少年も逃がすまいと追ってくる、ナチの執拗さは不思議なほどだ。もし、彼の体が大人のように大きかったら、荷台の中にもぐり込むのも、水辺に隠れるのも難しかっただろう。少年だったから、うその身の上話も短くてすむし、警戒もされにくい。それでも、固く扉を閉ざす人々。賢いユレクは、用心深く大人たちを引きつけて生き延びる。
 そして、少年だったからこそ、子供たちと仲良くなり、家族の一員として本当に愛されもしたのだろう。そうした経験が、過酷な経験のなかに、温かな違う記憶をすべり込ませ、心を休ませて生きる活力を注いだと思う。
 
 だが、追われるユレクが出会う人々は、必ず間もなく別れる相手。そして、その後はもう二度と会うことのない人々だ。助けてくれて、絆をつないだ人たちとの別れの切なさ。心もとなさ。それでも決して絶望せずに、次々と苦難を乗り越えて生き抜き、生き延びていく少年の姿に、深く胸を打たれた。 
posted by HIROMI at 18:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記