7日、日比谷野音に「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー」を聴きに行った。
トップバッターは、黒猫チェルシーで、「わかってもらえるさ」、「僕の好きな先生」、「君を呼んだのに」、「多摩蘭坂」。ボーカルは、清志郎の高校時代を描いたテレビドラマで、清志郎と間違われる男子生徒の役を演じた人。「清志郎さんをすごく尊敬していて、いつかセッションできたらと思い、2009年の4月に神戸から上京したら、5月に亡くなってしまった。死んだら天国でセッションしたいけど、それまでは現世で歌います」。彼の若さが、清志郎の若い時の曲に合っていると思った。
次はサニーデイサービスで、「ファンからの贈り物」、自分の長女の名前が春子だと言って「大きな春子さん」、「ヒッピーに捧ぐ」、「君は空を飛んで」、「僕の自転車のうしろに乗りなよ」。すごい声量で、絞り出すような歌い方だった。
3番目のJUN SKY WALKERは、RCの王道ソングを独り占め。「ロックンロールショー」、「キモちE」、「スローバラード」、「トランジスタ・ラジオ」、「上を向いて歩こう」。MCも、ガッタガッタも、マイクを空中でブンブン回すのまで、清志郎がやってたとおり。高校の時、今の壁がフェンスで、そこによじ登ってリハーサルを聴いてた頃からのファンだそうだ。
シアターブルックの佐藤タイジが「甲州街道はもう秋なのさ」を歌い終わると、梅津和時と片山広明のサックスが加わって、「ドカドカうるさいロックン・ロール・バンド」。佐藤タイジははじめは標準語だったのに、すぐに大阪弁丸出しになって、ガンガンにみんなを煽っていた。ちょっと暑苦しかったけど、ギターはめっちゃカッコよかった。
TOSHI-LOが登場すると、会場から声援がいっぱい飛んだ。
「地震のあとには戦争がやってくる。軍隊を持ちたい政治家がTVでデカいことを言い始めてる。国民をバカにして戦争に駆り立てる。いったいこの国は何なんだ。僕が生まれて育ったこの国のことだ。君が生まれて育ったこの国のことだよ。どうだろう、この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか?戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言ってるんだぜ。俺たちはジョン・レノンみたいじゃないか。戦争はやめよう。平和に生きよう。そしてみんな平等に暮らそう。きっと幸せになれるよ。」と2000年の清志郎の言葉を紹介したあと、「明日なき世界」。
それから原発について、「東北地震の直後、経産省に電話をかけて、メルトダウンしてますよね?と言うと何人もの役人が否定して、それでも粘ると、最後に出た人に、私たちがしてないと言っているのに、信じないアンタは頭がおかしい、といって切られた。あの事故までは、清志郎さんの歌を聴いてもまさか、と思っていたけど、今は、あの役人たちと清志郎のどっちを信じるかといったら、断然清志郎だぜ。」と語って、「日はまた昇る」を歌った。
私の席は、会場の一番上の一番端だったので、会場がよく見渡せた。TOSHI-LOが登場した頃、日がかなり落ちていて、彼の言葉に拍手する人たちが光に浮かび上がって、波のようだった。
チャボが登場すると、「RCサクセションが聞こえる」のサビを歌ったあと「あきれて物もいえない」。それから、「60年代の終わり頃に渋谷の青い森で出会って、遅いステージのあと、よく僕のアパートに泊まりに来ていた。その頃清志郎が作って聴かせてくれた曲」と言って「もっと落ち着いて」を歌ってくれた。初めて聴く曲だったが、メロディーラインが「夢をみた」に似てると思った。同じように切ない歌だった。
「清志郎の曲のメッセージは、僕はここにいるよ、僕を見て僕を愛して、だと思う。」と語り、野音について、「今だから言えるけど、前日に彼女とケンカしてヘビーになってたことがあった」とか「龍平ちゃんをステージにつれてきた時、父親の顔だと思った」と思い出を話した。
TOSHI-LOが清志郎のコスプレをして、マントまで羽織って出てきて、「よ〜こそ!」スーツ姿の山本シャブちゃんが懐かしかった。
最後は全員で「雨上がりの夜空に」。それからチャボが「夜の散歩をしないかね」。
それから、恒例のスクリーンで歌う清志郎。やっぱり彼を聴かなくちゃ。唯一無二の声。
チャボが何度も「清志郎が聴いてるよ」、「清志郎が喜んでるよ」と言っていたのが印象的だった。若い歌い手たちが彼の歌を引き継いでくれてるのがうれしかった。なだらかな会場が、温かな谷間のような感じがした。
2016年05月10日
2016年05月05日
さざなみ
結婚45年を迎えたケイト(シャーロット・ランプリング)とジェフ(トム・コートネイ)。長年連れ添った二人には、互いを大切に思いながら親密な日常を生きた、穏やかな雰囲気が漂う。45周年の記念パーティーを一週間後に控えた朝、ジェフ宛に、スイスで遭難したかつての恋人の遺体発見の知らせが届いた。
手紙を読んだ瞬間から、ジェフは昔の恋人カチャに取り憑かれたかのよう。「僕のカチャ」といい、近所を歩くのもやっとなのに、スイスへ遺体確認に行きたそうにする。出かけたケイトが電話をかけても、留守電のまま。禁煙の約束も破ってしまう。ケイトはショックを受けながらも、初めは、様子の変わった夫を心配し気遣う余裕を見せていた。
あろうことか、ジェフはケイトに、カチャと行ったスイスの6週間の旅行のことを、警察に夫婦だと言ったことや、ガイドを嫌っていたこと、山に咲いていた花のこと、そして不意に襲った事故に至るまで、詳細に語る。ジェフは多分、歳をとって妻に頼っている続きで、自分の思いを妻に受け止めて欲しいのだろう。妻は同志なのだから、すべてを分かってほしい。だが、なぜ出会った当時やもっと早くではなく、45年も経った今なのか。妻の気持ちを忖度しない彼の態度は、あまりに素朴で無神経だ。
結婚前に別の恋人がいたなど、ありふれたことで、自分への愛とは関係ない。ケイトも最初はそう思う。だが、老いた自分と違い、発見されたカチャは若い姿のまま。その思い出に執着する夫の様子に、ケイトは嫉妬する。久しぶりのセックスも、夫が若い頃のように急に政治談議を始めたと聞くと、カチャが現れた影響を感じる。夫がスイス旅行を思いつくのも、温暖化についての本を読むのも、すべてカチャのため。
追い詰められたケイトは、もしカチャが死んでいなかったら彼女と結婚していたかと問いただし、ジェフは肯定で答えた。この時彼女は決定的に、夫との生活がカチャの存在に浸食されているのを感じたのだと思う。
夫の留守に自らロフトに上がったケイトは、カチャの写真を発見する。夫は自分の写真は撮らなかったのに、カチャのものは、彼女が撮られたと意識しないものまで大量。しかもケイトはその中に、子供を産めなかった自分とは違う、妊娠した姿を見つけるのだ。
ジェフがケイトを撮らなかったのは、もしかすると、さかんに撮っていた恋人が死んでしまったからかもしれない。あんなに詳細に語ったジェフが、カチャの妊娠を話さなかったのは、ケイトを傷つけない配慮だったろう。それに、愛する恋人との結婚を考えるのは、ごく自然なことだ。だが、そのすべてがケイトには苦痛だ。そもそも、長年、カチャの思い出の品の下で暮らしていたなんて、ひどい。ケイトが今気付かなかったとしても、ジェフの死後に発見する可能性だってあるではないか。
ケイトが船に乗っているシーン、もしローマ人がこの地域に鉱脈を発見していなかったら、この運河は掘られていなかった、というアナウンスが流れる。そして、彼女は、事故のために宙ぶらりんになったジェフの選択の先にあった自分の人生の空しさに覆われる。
前日に妻の傷心にやっと気付いたジェフは、パーティー当日、朝からかいがいしくケイトに尽くし、スピーチでは、ケイトと結婚したという選択の正しさと、彼女への感謝を述べる。荷を降ろしたように、軽々と妻とダンスする姿には、単純なバカさと小狡さを感じた。仲直りできたつもりの夫のそばで、ケイトは完全に離れた心を抱いているのに。
手紙を読んだ瞬間から、ジェフは昔の恋人カチャに取り憑かれたかのよう。「僕のカチャ」といい、近所を歩くのもやっとなのに、スイスへ遺体確認に行きたそうにする。出かけたケイトが電話をかけても、留守電のまま。禁煙の約束も破ってしまう。ケイトはショックを受けながらも、初めは、様子の変わった夫を心配し気遣う余裕を見せていた。
あろうことか、ジェフはケイトに、カチャと行ったスイスの6週間の旅行のことを、警察に夫婦だと言ったことや、ガイドを嫌っていたこと、山に咲いていた花のこと、そして不意に襲った事故に至るまで、詳細に語る。ジェフは多分、歳をとって妻に頼っている続きで、自分の思いを妻に受け止めて欲しいのだろう。妻は同志なのだから、すべてを分かってほしい。だが、なぜ出会った当時やもっと早くではなく、45年も経った今なのか。妻の気持ちを忖度しない彼の態度は、あまりに素朴で無神経だ。
結婚前に別の恋人がいたなど、ありふれたことで、自分への愛とは関係ない。ケイトも最初はそう思う。だが、老いた自分と違い、発見されたカチャは若い姿のまま。その思い出に執着する夫の様子に、ケイトは嫉妬する。久しぶりのセックスも、夫が若い頃のように急に政治談議を始めたと聞くと、カチャが現れた影響を感じる。夫がスイス旅行を思いつくのも、温暖化についての本を読むのも、すべてカチャのため。
追い詰められたケイトは、もしカチャが死んでいなかったら彼女と結婚していたかと問いただし、ジェフは肯定で答えた。この時彼女は決定的に、夫との生活がカチャの存在に浸食されているのを感じたのだと思う。
夫の留守に自らロフトに上がったケイトは、カチャの写真を発見する。夫は自分の写真は撮らなかったのに、カチャのものは、彼女が撮られたと意識しないものまで大量。しかもケイトはその中に、子供を産めなかった自分とは違う、妊娠した姿を見つけるのだ。
ジェフがケイトを撮らなかったのは、もしかすると、さかんに撮っていた恋人が死んでしまったからかもしれない。あんなに詳細に語ったジェフが、カチャの妊娠を話さなかったのは、ケイトを傷つけない配慮だったろう。それに、愛する恋人との結婚を考えるのは、ごく自然なことだ。だが、そのすべてがケイトには苦痛だ。そもそも、長年、カチャの思い出の品の下で暮らしていたなんて、ひどい。ケイトが今気付かなかったとしても、ジェフの死後に発見する可能性だってあるではないか。
ケイトが船に乗っているシーン、もしローマ人がこの地域に鉱脈を発見していなかったら、この運河は掘られていなかった、というアナウンスが流れる。そして、彼女は、事故のために宙ぶらりんになったジェフの選択の先にあった自分の人生の空しさに覆われる。
前日に妻の傷心にやっと気付いたジェフは、パーティー当日、朝からかいがいしくケイトに尽くし、スピーチでは、ケイトと結婚したという選択の正しさと、彼女への感謝を述べる。荷を降ろしたように、軽々と妻とダンスする姿には、単純なバカさと小狡さを感じた。仲直りできたつもりの夫のそばで、ケイトは完全に離れた心を抱いているのに。