2016年06月26日

スポットライト 世紀のスクープ

 2001年、ボストンの地元紙グローブに赴任した新編集長のコーティン・バロンは、神父ゲーガンによる長年にわたる児童の性的虐待疑惑を、特集紙面の「スポットライト」で取り上げるよう指示を出した。

 ボストンでは教会が力をもち、グローブの新しい局長が教会にあいさつに行くことが慣例になっているほど。教会が調査やスクープの対象とは考えられていなかった。

 被害者団体のメンバーに話を聞いたチームの面々は、加害者はケーガンだけでなく、ボストンには性的犯罪を犯した神父が13人いると告げられて驚く。自分は運のいい生存者だが、被害者の中には、酒やクスリに溺れたり、自殺したりする者が多いということにも。

 被害者宅を一軒一軒まわって聞いた話は、残酷なものだ。神父は、神の代理者としての権威と、偽りの優しさで巧妙に子供に近づき、欲望のために彼らの人生を破壊する。餌食になるのは貧しい家の子供たちで、それは、わずかな示談金で口を封じやすいから。

 加害者を教会の年鑑で調べてみると、彼らはみな、短期間で転任させられていることが分かった。その共通項を逆探知すると、次々と疑惑の神父が、大量に浮上。そして、教会が、性的虐待者を転任するという手法で、事件を隠蔽していたという、恐ろしい事態が明らかになっていくのだった。

 これは巧妙な犯人秘匿。全米にネットワークをもつカトリック教会だからできたのだろう。だが、犯罪者を罰せずに他の地域に送れば、そこでもまた同じことが繰り返されることは簡単に像できるのに、教会が恐れたのは、そんな危険性より、何より教会の権威が失墜だったのだ。

 調査では、教会がふるう政治的な力が大きな壁となって、行く手を阻む。裁判の原告側の弁護士は、教会から数々のいやがわせを受けて、誰にも用心深く、チームにも協力しようとしない。教会側の弁護士たちは、守秘義務を理由に、口を開こうとはしない。裁判所を通さない直接示談のために、資料がなかったり。

 刻々と動く状況に冷静に対処しながら、エネルギッシュに走りまわる記者たち。厚い壁にもめげず、何度も挑戦し、思わぬ近くに突破口を見つけたり。朝一で資料を手に入れるために、一晩中裁判所で待ったりも。彼らの心に火をつけたのは、重い過去を語ってくれた一人一人の被害者への共感だ。一方で、たえず他紙との競争にさらされてもいる彼らの競争心や焦燥も、リアルだった。

 「スポットライト」は、一つのことを何か月もかけて追いかける特集。2001年に記事にしてから、チームは神父による児童の性的虐待と教会による隠ぺいについて、なんと600回も連載している。地道な調査によって、巨大な権力による不正を暴き、声なき犠牲者に光を当てる。これぞ報道の真骨頂だろう。 
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2016年06月12日

殿、利息でござる

 江戸時代、仙台藩の吉田宿。やせた土地で、百姓だけでは食べていけないため、商売もしながら暮らしていた町の人々だったが、物資を輸送する天馬役を負わされていたうえ、馬の購入や飼料代、人足の費用などが町の自腹だったため、人々は困窮し、夜逃げする者が続出。残った者たちの負担が益々増えるという、悪循環に陥っていた。

 お上のやり方に憤慨する造り酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダオ)に、策を相談された茶師の菅原屋篤平治(瑛太)は、「藩に千両を貸し付ければ、その利息百両を天馬の費用に回せる」とひらめいた。
 あまりの大金だから、絵空事だと思ったのに、十三郎はそのアイデアに飛びつき、すぐさま叔父を賛同者にして連れてきた。町のまとめ役である肝煎りや、その上の大肝煎り。彼らは、藩の行政の下部役員でもあり、計画を打ち明ければ即反対し、迫害してくるかもしれない相手なのに、すんなり賛成してくれて、え〜!な展開。
 もうかる投資と間違えて仲間に入る両替屋(西村雅彦)や、煮売り屋のとく(竹内結子)にいいところを見せようと金を出す小間物屋(中本賢)など、欲や下心も人々を動かして、ごたごたがありながらも少しずつ仲間が増えていく。

 当時の千両は、今に換算すると何と3億。それを十三郎たちは、生活を切り詰め、家財を売って工面しようとする。自分の損得を抜きに、地域のために頑張っていくのだ。町全体に図って全員から集めることはかなわないので、志をもった者が、できる限りの力を尽くそうとするのがすごい。彼らは、今の状況の理不尽さを何とかしたいだけでなく、息子や、そのもっと先の未来の町の人々の繁栄を見据えていたのだ。

 十三郎たちは中町の人間だったが、噂を聞いた下町や上町の人足たちが、競争心から、それぞれの有力商人たちを説得にかかるのもおもしろかった。そうして、十三郎の弟の、造り酒屋の浅野屋甚平(妻夫木聡)が大金を出すことに。だが、それを聞いた十三郎は、突然計画から降りると言い出すのだった。 

 長男でありながら幼い頃に養子に出された十三郎は、出来のいい弟へのコンプレックスと、父(山崎勉)に愛されなかった思いを抱きながら、守銭奴の二人を憎んでいた。彼が、弟との確執を乗り越え、父が隠していた志を知るのがドラマチック。そして、軽い気持ちの言い出しっぺだった篤平治は、十三郎とのからみでどんどん本気になっていく。

 涙ぐましい努力と忍耐で目標額を達成するものの、願いをお上に聞き届けてもらうまでが、最大の難関だった。代官が味方になってくれてお上の耳に入れてくれたのに、出入司の萱場杢(待田龍平)が即却下。熱心だった大肝煎りは、出世欲から心を離しかける。そして、やっとのことでオッケーが出たかと思うと、小判へのレート相場が変わったせいで、さらに大金が必要に。それでもまげず諦めず、骨身を削って金を集める人々の、粘り強さと団結力に圧倒された。

 最初の計画から延々6年。みんなの願いが達成され、喝采したい気分で流れたRCの「うえを向いて歩こう」、最高だった。
posted by HIROMI at 14:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記