2016年09月19日

太陽のめざめ

 2か月も子供を学校に通わせていない母親(サラ・フォレスティエ)を、裁判所に呼び出したフローランス判事(カトーリヌ・ドヌーヴ)。だが、とがめられた母親は逆キレし、育児放棄を6歳のマロニーの素行の悪さのせいにして、口汚く彼をののしったあげく、赤ん坊だけを抱いて飛び出して行く。残されたマロニーは、養護施設に一時保護されるのだった。

 10年後、再びフローランス判事の前に現れたマロニー(ロッド・パラド)は、問題行動の多い、反抗的な少年になっていた。フローランスは、彼に教育係をつける「児童教育支援」を受けさせるが、マロニーはすぐに傷害と車の窃盗を犯す。反省もなく投げやりなマロニーに、フローランスは、検事が主張する少年院ではなく、更生施設に送る措置を取るのだった。

 気性が激しく、いつもイライラし、すぐに激昂するマロニー。だが、最初に母親に捨てられたシーンの、繊細そうで悲しそうな印象は、その後もずっと変わらない。彼が突然暴力をふるうのは、いつも拒絶された時だ。初めの教育係が、手に負えない、と辞めた時。施設で勉学を積み、少しは落ち着いたのに、復学に懐疑的な冷たい役人の前で。母親に拒まれた深い傷が、無意識のフラッシュバックの中で、何度も爆発してしまう。抑えられない怒りの衝動と、飢餓感を抱えた危ういマロニー。愛されなかった彼は、自分を大切にすることも、他人を大事にすることも学ばず、自分の可能性も認めず、自分をただ無能だと思っている。

 本当は分かって欲しいのに、愛され方が分からないマロニーと、彼を忍耐強く導こうとする周囲の攻防は、長く激しい消耗戦だが、とても切なかった。
 施設での学習時、いやがりながらも何度も書き直す彼の前には、丸めた紙だらけ。それだけの時間、頑張っているということだ。途中でキレて出て行くも、待たれていると知っているので、ソロソロと戻ってくる。
 フローランスは、かつて自分が更生させたヤン(ブノワ・マジメル)を教育係につけるが、マロニーの姿にかつての自分を見るヤンは、体当たりで指導する。仕事をさぼった朝に引きずり出されて暴力を受けたマロニーは、フローランスに告訴したいと訴えるが、いざとなると色々理由をつけて取りやめる。彼はヤンの本気を感じているのだ。
 そして、マロニーは、表面は反抗しながらも、自分を案じてくれるフローランスを慕っている。誕生日に施設を訪れた彼女が忘れたスカーフを、子供のように顔に当てる。

 母親が他人に向かって自分のことを口汚く言う時、マロニーは傷つきながらも辛抱している。彼が母親に向かってキレるシーンはほとんどなく、彼は母の愛を空しく求めて続けているのだ。若すぎてだらしない母親だが、彼女もまた、まともに愛されなかった過去がうかがえる。

 彼を大きく変えるのは、恋人ができたこと。指導員の娘で、少年のような不思議なオーラを放つテス(ディアーヌ・ルーセル)。二人が初めて過ごした、不器用な夜のシーンの切なさ。マロニーはテスの妊娠を受け入れられないが、中絶手術の直前に彼女を連れ戻す。彼は、見捨てられる胎児に自分を重ねたのだと思う。テスは、普通なら敬遠するような相手に近づくが、彼女はマロニーの本質的なものを見抜いて、心から彼を愛しているのだ。

 視線やちょっとしたことが多くを語っていて、離婚したことを話すヤンに、マロニーが慰めるように「あんたを愛してる」というシーンも、施設でおかしいなペンの握り方をしていたマロニーが、裁判所ではきちんとした持ち方でサインをするシーンも、うれしかった。熾烈だが、希望にも強烈に満ちた、美しい作品だった。
posted by HIROMI at 09:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記