2017年04月10日

汚れたミルク

 1994年のパキスタン。国産の薬のセールスマンのアヤン(イムラン・ハシュミ)は、病院で門前払いを受けるばかり。医師たちは、多国籍企業の薬が国産のそれより5倍も高価で、貧しい人たちが買えないことは無視して、前者を採用していた。家族を養えずに困ったアナンは、妻ザイナブ(ギータンジャリ)の助言で、粉ミルクを売る多国籍企業に応募する。

 医師とのパイプ強調して採用されたアナンだったが、上司のビラル(アディル・フセイン)は軍の上官みたいで、倫理や社会貢献とは無縁に、販売拡大ばかりが強調される。そして、ターゲットにした医師を、金品で釣るよう指導されるのだった。

 看護師たちに粗品を配って、医師の趣味など情報を聞きだし、まき金プラス好きな音楽のカセットを渡したり、医師たちのパーティーの飲食代をもったり。そんな無節操な買収活動で、自社の製品を乳児に処方するよう働きかけるのだ。製品の優秀さを信じていたアナンは、非常に有能なセールスマンだった。

 だが、3年後、アナンは友人の医師ファイズ(サティヤディーブ・ミシュラ)から、自社の製品のせいで大勢の赤ん坊が死んでいる、という事実を知らされる。下水道の整備がない中、不潔な水で溶いたミルクで下痢を起こしたり、高価なミルクを買い続けられないために、薄いミルクで栄養不良に陥ったり。深刻な事態にショックを受けたアナンだったが、恐ろしいことに、会社は事態をとうに知っていたばかりか、「金品の授与を禁じた書類を渡していた」というのだ。守らせるつもりのないルールは、会社の逃げ道のために作ったものなのだろう。

 アナンは、会社をやめただけでなく、販売中止を求める告発状を会社に送り、それを無視されると、WHOに通報した。重い状況を引き起こした当事者として、やむにやまれない思いで行動したのだ。

 そんなアナンに、一斉攻撃が始まる。医師たちもアナンを責め、ビランたち会社は、アナンを監視しし続ける。そして、懇意にしていた軍医の大佐は、「告発を続けると家族の命はない」と脅迫。否定した彼をすぐさま拘置所につないでしまう。企業の悪事を裁くべき国が、企業の側につくのは、やはり金がらみだろう。小さな国を買いたたけるほど、多国籍企業の力は強大なのだ。

 アナンに協力して助けたのは、人権組織の職員マギー(マリアム・ダボ)。彼が保管していた大量の領収書が、不正の動かぬ証拠だった。国内では無理なため、海外での反響を期待して、ドイツでドキュメンタリー番組を作ることになるが、敵が強大な分、訴訟のリスクを考えて、スタッフが非常に慎重だ。それでも撮影が順調に進んで、企業の悪事を暴く雑誌も完成。だが、企業側から、アナンが会社をゆすった証拠が送られてきて、企画は間際でとん挫するのだった。悪賢い、驚くほど巧妙なワナ。だが、たとえアナンに過ちがあったのが本当でも、会社の悪事が消えたわけではない。それなのに、ジャーナリズムの追求がそこで止んでしまうのは、相手が強大とはいえ、本当にはがゆい。

 映画は、ドキュメンタリーの撮影に協力するアナンの証言を再現する、という形をとっているが、この映画あ自体、リスクのために、撮影開始直後の2007年に中断したという。公開はなぜか日本が世界初。アヤンの命がけの告発が届くのに、随分時間がかかった。映画が映す悲惨な現実が2013年であり、今も続いていることが恐ろしい。
posted by HIROMI at 19:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年04月04日

感謝の日 VOL.8

 忌野清志郎の誕生日の2日、愛知県新城市のほうらいパークで開かれた「感謝の日」のイベントに行ってきた。清志郎の死後、三宅伸治が、東京で毎年開いていたそうで、今回初めて、清志郎が愛した奥三河で開催。2年前に彼の写真展が開かれたのと同じ土地。また来れたのが本当にうれしかった。

 前日は雨だったのに、きれいな晴天。前乗りして11時の開場より1時間も早く着いたのに、もうたくさんの人が並んでいて、タイマーズの秘蔵映像上映会の時にヘルメットを貸してくれた人が、ギターを弾いて歌って盛り上げていた。チケットをレインボーのリストバンドと引き換えると、みんな次々に広い会場に駆けて行った。

 清志郎が定宿にしていた「はず」の女将と、梅津和時の温かいMCの後、三宅伸治が「今まで東京のライブハウスでやっていた時は地下だったので、空が遠かったけど、今日は空がすぐ近く。きっとボスがそばで聴いてくれてると思う」と言って、NICE MIDDLE WITH NEW BLUE DAY HORNSをバックに歌いだした。「シェイク」、「涙のプリンセス」、「分からず屋総本舗」はコメディのノリ、「いいことばかりはありゃしない」、「ボスのソウル」はずっと清志郎の近くにいた心情が迫って、切なかった。

 2番手は石塚英彦で、「上を向いて歩こう」、「よそ者」、「雑踏」。真摯に清志郎へのリスペクトが伝わってきた。力強く自信満々だったのに、退場する時は、すみませんって感じだったのが可愛いかった。

 次は間慎太郎。ハンサムだけど、お父さんにそっくり。「ダンスミュージックあいつ」、清志郎の歌の中で一番大好きといって「ラプソディー」。高音がよくとおるきれいな声。「ラン寛平ラン」のあと、予想どおり寛平ちゃんが登場。会場はすごく広いけど、みんな舞台の前に集まっていて、規制線もないので、歌い手と聴衆がすごく近く。寛平ちゃんは、お客の声に応えて「血ぃ吸うたろうか」や「かい〜の」をたっぷりサービス。歌が始まる前に「アメママンの歌」を歌いだして、大笑いになった。それからやっと、親子で「誇り高く生きよう」。

 竹原ピストルは、全然知らない人だったけど、歌がすごく上手かった。小さい頃から、姉の部屋から流れてくる清志郎の歌を聴いていたそうで、「まぼろし」と「500マイル」を聴かせてくれた。

 浅野忠信が登場すると、「ベイビー逃げるんだ」のあと、「キモチE」と自分の歌を3回ずつ、実質3曲で計7曲分の時間を取って、お客を煽りに煽っていたけど、あんまりしつこ過ぎて辟易。清志郎のしつこさには、どんな場面でも全く幸せな思いだったのになあ。でも、清志郎を愛してくれているのは、超ウレシイ。

 懐かしいイントロが流れて、なんとタイマーズが登場。トッピはもちろん三宅だけど、ゼリー役は次々と交代。でもヘルメットにサングラスだから、初めは誰だか分かりにくかった。竹原ピストルが「偉い人」、山崎まさよしが「あこがれの北朝鮮」、浅野忠信が「ロックン仁義」、「宗教」。金子マリが「企業で作業」、「税」、「イモ」。あ〜、こんなメンバーでタイマーズ復活ってすごい。

 このあと、山崎まさよしが一人で「トランジスタ・ラジオ」と「ヒッピーに捧ぐ」。金子マリが出てきて、一緒に「ドカドカうるさいロックンロール・バンド」。彼女一人で「エンジェル」。清志郎、金子マリが歌ってくれて喜んでただろう。

 アンコールで三宅伸治が現れると、会場中の人が飛び上がって「ジャンプ」。それから、ドラゴンズの川俣選手も登場し、出演者全員で「スローバラード」と「雨あがりの夜空に」。みんなが手をつないでの最後のあいさつも、清志郎の舞台のままで、温かかった。
 最後は三宅伸治と金子マリが二人で「約束はしないけど」。しんみりと、寂しさと温かさが心に沁みた。また来年も来れたらいいな。
posted by HIROMI at 19:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記