2008年04月03日

トゥヤーの結婚

 ベルリン国際映画祭グランプリの「トゥヤーの結婚」を観た。

 内モンゴルの砂漠に暮らすトゥヤー(ユー・ナン)は、井戸掘りで怪我して動けない夫バータルに代わり、過酷な力仕事に耐えるが、無理がたたって腰椎脱臼で入院。共倒れを防ごうと夫と離婚し再婚することを決意するが、彼女の結婚の条件は別れた夫もともに暮らすことだった。

 画面を地平線が横切る雄大な大地。カメラが馬やらくだの動きを追わず、画面が正面を映したまま、それらが画面の外から入ってきて、また外に出て行くのが新鮮だった。長い山並みにも広いひろい土地にも木というものがなく、そこをらくだに乗った女性が通るのも、今まで見た事がないシーンだ。モンゴルの民謡もとてもエキゾチックだった。

 そこで繰り広げられる重労働は、多分日本では2、3世代以上前の農家だろう。毎日2往復30キロの道を通って水汲みし、羊を追う。今もあんな世界があるなんて。離婚を受け付けた裁判所が、お見合いの紹介をしてるのもびっくりした。そしてたくさんの求婚者がやってきては去っていく。

 油田で成金になった同級生ボロルと婚約するが、施設に入れられたバータルは自殺未遂をしてしまう。駆けつけたトゥヤーが泣いて怒る場面がとてもせつない。酒のビンを持たされて泣く女の子、うつむいたままの男の子。顔をそむけてむせび泣くバータルも、トゥヤーも、ギリギリの状況にいる。

 もう一人の求婚者は隣人・セングーだが、浮気な妻に振り回されている軽薄で頼りない彼が、バータルの危機を知らせたり、トゥヤーを助けるうちに次第に頼もしく見えてくる。井戸を掘るために発破をかける場面は、なんとか無事に成功して欲しいと彼を応援する気持ちになった。

 精悍といえるほどたくましいトゥヤーだが、彼女の表情の中で一番心に残ったのは、井戸掘りに精出していたはずのセングーが、妻が戻ったと聞いて彼女を追いかけて出かけたと聞かされた時の顔。どうせ成功しないと思っていても、やはり井戸が掘れて暮らしが楽になることに期待があったろうし、セングーの一途さにも心が傾いていたのに。井戸から静かに歩いてくる彼女のほほに涙が流れているのが、一瞬だけ見える。手に持った茶碗を割ったりしないのが、よけいに悲しい。

 ところで、場面のなかによく酒がでてくる。セングーは妻が男と駆け落ちしたために酔いつぶれてトゥヤーに助けられる。バタールは家族との別れに耐えられず酒をあおって自殺を図る。一方、バタールの姉は、体の痛みに耐えて生き延びるために酒を飲んだという。酒との関係は男と女で間逆に見える。結婚が決まった相手は、トゥヤーがつごうとした酒を飲めないからと断る。彼は酒で迷惑をかけたりしないだろうが、女が痛みを酒で癒すことがあるなど想像しないに違いない。彼の代わりにトゥヤーが杯を開けた時、相手に見えない苦労を一人担っていく覚悟の表れのように思えた。

 最後は、一応ハッピーエンドに見える。観ていて一番結婚してほしいと思った相手とトゥヤーは結婚する。だが、彼女が大泣きで流す涙は何だろう。父親が二人いることで悪口を言われた息子がけんかし、結婚相手と夫が式でけんかする。彼女には何の迷いもないが、これから背負っていかなければならないものは、相変わらず大きいはずだ。
posted by HIROMI at 22:58| Comment(2) | TrackBack(11) | 日記
この記事へのコメント
HIROMIさん、訪問いただきありがとうございました!
モンゴルの雄大な大地がまるでトゥヤーその人を表している様な作品でしたね。

(※ここからネタバレになりますが)
結婚式でのバータルの振る舞い等から、これからも彼女の人生には色々ありそうな印象を受けました。ラストのトゥヤーの涙はスゥーッとこちらの気持に入ってきて切なかったです。
Posted by at 2008年04月08日 11:17
こちらこそコメントありがとうございます!
厳しい大地を、感情を隠さない率直さと、驚くほどの忍耐強さで生き抜く姿に感動しました。とても魅力のある主人公でしたね。
結婚後も、ひとりでいろんな苦労を背負っていくのかと思うと切ないです。
Posted by HIROMI at 2008年04月08日 20:34
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