2008年04月20日

スルース

著名な犯罪小説家アンドリュー・ワイク(マイケル・ケイン)の家に、美貌の若者マイロ・ティンドル(ジュード・ロウ)が招かれる。彼は小説家の妻の浮気相手。小説家は妻の相手がどんな男か見たいと思い、青年は離婚を承知させたいと思っている。

監視カメラが張り巡らされ、からっぽのギャラリーのような冷たい無機質な家は、ドアの開閉も照明の変更も、アンドリューの手に握られた小さなリモコン操作で行われる。まるで近代的な忍者屋敷。

この閉塞した場所で二人の鋭い言葉の応酬が繰り広げられる。相手の弱みを揺さぶり、自分の優位を誇示し、相手に手を引かそうと画策するのだ。だが、言葉でだけのバトルですまない、死を予感させる緊張がみなぎっている。きっと、青年が殺される。小説家は嫉妬に狂っていて、初めから殺すつもりでおびき寄せたんだ、そう思わずにいられない。

 果たして、小説家は、自分は保険金を得、青年も大金を手にできるからと、妻の宝石を彼に盗ませ、正当防衛に見せかけて彼を銃撃する。あー、やっぱり。でもこんなに早く結末が?と思っていると、屋敷に青年の消息を追って刑事が現れる。刑事コロンボのような展開か。刑事は小説家の犯罪を暴こうとしながら、彼の妻がどんなに魅力的だったかをうっとりと語る。手でもてあそんでるリモコン。眼をすえて聞いている小説家の表情が不気味だ。そして、前の場面と同じような暴力シーンが今度は刑事によって加えられる。殺人の証拠が出て、これでおしまいか、と思うと、まだそこからもうひとひねり。手の込んだ化かし合いは衝撃的だった。

 二人の特徴は対照的。小説家には財力と社会的地位があり、青年には若さと美貌がある。つまり、互いに相手の持っているものを持っていない。小説家は財力のない青年には金のかかる妻は無理だというが、青年は愛されている自信からそんな言葉には動じない。力関係が微妙なバランスを保ちながらストーリーが進むが、二人を対照させるもう一つのキーワードは「心」だろう。
 最初の場面で、銃を突きつけられた青年は、命乞いをしようと、妻が小説家の心がすばらしいと言っていたとほめる。だが、小説家にとってそんな言葉は、体に対するコンプレックスを強調されるだけだ。だが、第3の場面で、小説家が青年の心が気に入ったといって同居を提案した時、青年はこれまで体は求められても心は誰もほめなかった、と気持ちが傾く。
 この上ない条件での同居の提案に迷いながら、青年が見せる傲慢さ。かと思うと相手を誘うようなそぶりを見せ、ますます彼が複雑に見えてきた。

 二人が争っている当の妻が全く姿を見せないのもおもしろい。会話の途中に青年の携帯にかかってくる電話は、緊張を解くどころか、小説家の嫉妬をかきたてる。3つめの場面での電話は、誘惑されている青年の気持ちを元に引き戻すのか、と思いきや、その先は意外な方向に。
 二人がベッドインとかしてる現場に妻が現れ、皮肉にも二人ともが彼女を失うのでは、と思ったのに、あろうことか、初めに想像していた殺しの場面が、全く忘れていたころにやってきて、最後の銃声にはほんとに飛び上がってしまった。結末がこうなら、小説家は途中から青年に恋をし、妻から引き離すための駆け引きというのでなく、本気で彼を誘惑していたということか?何となく納得できないような。しかし、とにかく最後までハラハラしどうしで、あっという間に終わった気がした。 
posted by HIROMI at 21:14| Comment(6) | TrackBack(12) | 日記
この記事へのコメント
こんばんは!
TB,有難うございました。
ジュードもマイケル・ケインも大好きなので
舞台を見ているように堪能出来たので満足の作品でした。
リモコン一つで優位に立つというスタイリッシュなインテリアも照明も
素敵な戦いの場でした!
Posted by kira at 2008年04月20日 23:54
トラコメどうもです。
ケネス・ブラナーの出演・監督する作品・・って、演劇っぽいので好みが別れますね。
ひらりん的には「舞台よりすてきな生活」という作品がオススメです。
「魔笛」は眠かったし・・・。
Posted by ひらりん at 2008年04月21日 01:20
Kiraさん
私の方こそコメントありがとうございます。
迷宮の中のに閉じ込められたような感じの空間でしたね。リモコンですべてが操作されるのも、とても緊張感がありました。ジュードもマイケル・ケインも上手いですよねえ。ほんとに堪能させてもらいました。
Posted by HIROMI at 2008年04月21日 20:34
ひらりんさん
コメントありがとうございます。
登場人物がたった二人という映画は初めてでした。ほんとに演劇みたいでしたが、カメラワークが自在なのが映画のすごいところでしょうね。ケネス・プラナーの作品自体初めて観たのですが、おもしろいですね。おすすめの「舞台よりすてきな生活」探します。ありがとう。
Posted by HIRoMI at 2008年04月21日 20:39
こんにちは☆
登場人物が2人だけだったのに
それを感じさせないほどおもしろかったです!
設定もあのお屋敷だけだったし〜。
オープニングの防犯カメラからの映像だけどもう釘付けなっちゃいました。
Posted by きらら at 2008年05月13日 06:31
きららさん
コメントありがとうございます。
たった二人のセリフでストーリーが進むのに、退屈どころか、まったく目が離せないドキドキの展開でしたね。
観ていてこんなにあっと言う間だった映画も少ないし、あんなに限られた空間でエンターテイメントな映画もなかったのでは、と思います。
Posted by HIROMI at 2008年05月13日 20:28
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