2008年05月24日

つぐない

 帰省する兄の歓迎パーティーで上演するための戯曲を書く13歳の少女ブライオニー(シアーシャ・ローナン)。年の離れた姉セシリア(キーナ・ライトレイ)は、幼馴染で同じ屋敷で暮らすロビー(ジェームズ・アカヴェイ)をことさら避けながら、視線の先に彼をとらえている。彼女は彼に恋していて、彼に気づいてほしいのに何の進展もないことにいらついている。
 池の傍に立っている二人の不穏な雰囲気に引き付けられたブライオニーは、姉が下着姿になって池に飛び込み、濡れそぼった姿でロビーの前に立つ姿に衝撃を受ける。大人の入り口にも立っていない彼女だが、それが見てはいけない場面であること、自分の入れない世界であることを感じている。草の茂みを棒でたたき散らして怒りと疎外感をぶつけている彼女に、ロビーは間違えて入れてしまったセシリア宛の卑猥な手紙を託してしまう。それは、セシリアとロビーを急接近させるが、ブライオニーのロビーに対する嫌悪も生む。
 そして、二人の密会の場面を目撃して姉がひどい目にあっていると誤解するブライオニー。家に来ていたいとこのローザが乱暴される事件の現場で逃げる男を垣間見た彼女は、犯人がロビーだと証言し、彼は無実の罪で逮捕される。

 彼女の証言は推測でしかないが、確信していて本気だ。だが、彼女は警察にローザの事件は話しても姉のことは話さない。つまり、姉とロビーの間に起こっていたことは、事件ではなく自分から遠く離れた男女の性愛なのだと理解している。ひそかにロビーにあこがれていた彼女は、嫉妬や疎外感や、自分には冷たいロビーに対する懲罰的な気持ちがないまぜになったのだろう。そして、彼女の証言が、二人の愛を引き裂き、その後の人生に決定的な影を落とすことになる。

 もし戦争中でなければ、ここまでの悲劇にならなかったかもしれない。兵士として最前線に送らたロビーは、負傷して港にたどり着き、瀕死の体で帰還船を待つ。家を出て看護士になり彼の帰りを待つセシリア。そして、大学には行かずに看護士になり、負傷兵の手当てに当たりながら姉に謝る機会を待つブライオニー。戦闘の場面は一度もないが、折り重なった少女たちの遺体や傷病兵であふれる病院が悲惨な状況を伝えるなか、彼らの運命も時代に翻弄されていく。

 最後は老齢になった作家のブライオニーが、自分の遺作となる作品について語る場面だが、この話の本当の結末はあまりに悲しいものだった。二人に償うことなく一人生き延びたブライオニーの人生は、どれほど苦々しいものだったろう。作品の中で、ロビーに早くみんなに真実を話せ、と言わせているが、実際には彼女はそうせず、人生の終わりにやっと小説という手段で自分の過ちを告白し、かつ小説の外のインタビューで、自分のために狂った二人の人生の悲惨な結末を告げている。事実を虚構であがなったというより、事実の重さに逃げずにはいられなかったのではないかと思う。

 時間軸に沿って進むストーリーだが、時間を少し後戻りしてことの真相を説明する手法が、三人それぞれの視点を映し出して重厚感を出していたと思う。
 18歳になったブライオニーを演じたラモーラ・ガライは、「エンジェル」の時と打って変わって陰鬱で地味な女性で、始め彼女だとすぐに分からなかった。
posted by HIROMI at 22:40| Comment(4) | TrackBack(22) | 日記
この記事へのコメント
HIROMIさん
コメント・TBありがとうございましたm(__)mこの作品はかなり反響のある作品でしたね。13歳の少女の感情的な嘘から、人の人生を狂わしたわけですから。一生かけても罪を償うことってやはり物理的には難しいでしょうね。ただ彼女がそのことによって苦しみ、悩み続けたことは決して無駄ではなかったと思います。観た人の受け止め方はそれぞれあるでしょう。メッセージ性の強い作品と思っていますが・・・。
Posted by mezzotint at 2008年05月30日 11:00
mezzotintさん
ご来場ありがとうございます。
自分のうその重大な結果を背負いながら生きたブライオニーの人生も、重苦しく耐え難いものだったと思います。彼女のうその背後にある思いを誰も知らないし、結局、彼女自身、とても孤独な少女だったのでしょう。見抜けなかった大人たちの罪も重いのでは、と思います。
生き方を問うているし、声だかではないけど反戦もあるし、階級批判もあるし、確かにメッセージ性の強い作品でしたね。
Posted by HIROMI at 2008年05月30日 21:32
こんばんは

はじめまして。27のドレスで
コメントありがとうございました♪

こちらの作品は、すごく気に入ってしまいました〜。
今年観た中では上位になります。
切ない物語でしたね。
Posted by mig at 2008年05月31日 22:42
migさん
私のほうこそご来場ありがとうございます。
migさんが書いておられるように、顔のアップや海岸の場面の長回しとかのカメラワークがよかったし、タイプの音も効果的で上質な映画でしたね。切ない話だけどサスペンス的な要素もあって、とても見ごたえがありました。
Posted by HIROMI at 2008年05月31日 23:24
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