2015年07月18日

ラブ&ピース

 ロックミュージシャンを目指すも挫折し、楽器の部品会社で働く鈴木良一(長谷川博己)。4畳半のアパートでテレビをつければ、東京五輪を論じているはずのコメンテーターたちが全員、良一のことをあざけり始める。通勤電車の中でも、乗客たちが全員、バカにした視線で取り囲む。あり得ない設定は彼の妄想なのでは?と思うも、会社で思いっきりバカにされる耐えがたさは現実。
 デパートの屋上で買った緑カメにピカドンと名付けた良一は、ロックスターになる夢を語り聞かせ、手作りの人生ゲームの上を、満員の日本スタジアムでライブするゴールまでを走らせる。

 愛情を一杯注ぎ、ピカドンをいつもポケットに入れていた良一だったが、会社ではやされ追い詰められて、何とピカドンをトイレに流してしまう。そして、罪悪感と寂しさに狂いそうになるのだった。

 だが、ピカドンは死なずに地下道をながれ、捨てられた人形やロボットやぬいぐるみや、ペットたちと暮らす老人(西田敏行)の元に流れ着く。おもちゃやペットが口をきくなんて、孤独な浮浪者の妄想なのでは?と思うも、人形たちを生き返らせる老人の力は現実。そして、老人の魔法と、良一の夢を背負ったピカドンのおかげで、良一はスター街道を走っていくことになる。

 自分は氷山で、今見えているのは本当の自分の一部にしかすぎない、と良一は言うが、プロデューサーの眼に留まったのは、たまたま看板の文字をつなげて作った歌詞だし、反骨の反戦歌手といっても、ピカドンが原爆のこととも知らず、カメを思って歌ってるだけ。彼に隠されたすごい才能など多分なく、みんな夢のようなラッキーなのだ。でも、見かけと雰囲気だけは、スターらしくカッコいい。

 大事なピカドンを捨ててしまった良一は、ピカドンが彼に歌を授けに帰って来てくれた時、大好きな寺島裕子(麻生久美子)が部屋に現れると、ピカドンのことを隠そうとする。本当は弱いままの、空っぽの彼。だが、ピカドンを頼りつつ恥じる彼の奥底には、変わらぬ愛情があり、それが何とも切なかった。
 そして、彼に捨てられたのに、愛情を注がれた思い出を大事に、ずっと良一の夢のために生きようとするピカドン。捨てられた人形たちもペットたちも、大切にしてくれる老人のそばにいながら、別れたかつての主人をずっと思っている。

 ラスト近く、巨大になったピカドンが、街を壊しながらスタジアムに迫る場面は、怪獣映画そのもの。そして、自分に語った良一の言葉を口にする。ピカドン自身として語らないのが、ショッキング。それほど良一の願望と一体化していたのだ。
 我に返った良一が、舞台を降りて裕子に近づいた瞬間、清志郎の「スローバラード」が流れ始める。この曲を聴くために観ようと思ったのだけど、聴く前からもう涙が流れていた。最後は振り出しに戻るのは、結局すべて妄想だったわけでなく、良一は再生してるはず。荒唐無稽な話なのに、強烈に抒情的。なんか意味わかんないけど、すごく切ないよ。
posted by HIROMI at 10:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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