2008年06月07日

譜めくりの女

 静かに確実に遂行される復讐。流血も叫びもないが、寒々と怖い映画だった。

 試験中にファンのためにサインをするという試験官の行動によって落選し、ピアニストの夢を立たれたメラニー(デボラ・フランソワ)は、十数年後、試験官だったピアニスト・アリアーヌ(カトリーヌ・フロ)の夫が経営する弁護士事務所に実習生として採用される。そして、息子トリスタンの世話を買ってでて屋敷を訪れ、そこで妻のアリアーヌに気に入られて彼女の譜めくりになる。

 ひき逃げ事件の後精神が不安定になっていたアリアーヌはメラニーの支えに依存するように。一方、息子もメラニーになつき、家族の信頼を得ていく陰で、メアリーの復讐が次々と形になっていく。
 三重奏のチェロ奏者の足を怪我させ、エージェントとの契約のかかった演奏の本番直前に姿を消し、アリアーヌの精神状態を混乱させて失敗させる。トリスタンに無理な練習を課しながら、そのことを秘密にさせる。アリアーヌを見つめるメラニーのまなざしには、賞賛以上のものがあり、それに当惑するアリアーヌだが、これもメラニーの罠。結局メラニーの仕掛けた二人の関係が、アリアーヌから夫と家庭を奪う。そして、無理な練習がおそらく息子の未来も壊している。

 少女時代のメラニーがすむ肉屋のつつましい家と、対照的なアリアーヌの広大な屋敷。その長い廊下の先にある室内プール。そこで息を止める練習をするトリスタンの頭を押さえつける場面が恐ろしい。広い庭で後ろから彼に近づく場面も、ただのかくれんぼなのに悪いことが起こりそう。もの静かなメラニーの暴力的な面に息を詰める思いだが、復讐は深く進行して表面上は何も起こらず、その跡形を残さない。復讐されるアリアーヌにも、自分に起きたことの意味が最後までわからないだろう。その意味で、これは周到な完全犯罪。しかも分かったところで、メアリーを法に触れることを何ひとつしてはいないというだろう。

 メラニーがかつて試験で味わったのと同様の不安や極度の緊張にアリアーヌが悩まされていて、その精神状態を利用すること、自分を失敗に追い込んだ写真へのサインでアリアーヌを破滅させることなど、メラニーの復讐の仕方が彼女の経験とぴったり呼応しているのがうまくできていると思った。

 デボラ・フランソワは「ある子ども」のソニア役だった女優だけど、あの無邪気な跳ねっかえりの感じと全然違ってびっくり。カトリーヌ・フロも、「地上5センチの恋心」とうって変わってシリアスな雰囲気、さすがです。
 
posted by HIROMI at 11:33| Comment(2) | TrackBack(7) | 日記
この記事へのコメント
おはようございます。
この映画って復讐ものなんですね。
気になっていたんですが、こちらの劇場ではまだ上映日が決まらなくて待ちの状態で・・・苦笑
「ある子ども」のあの女優さんが出てますか!
機会があったら観たいと思います。
Posted by アイマック at 2008年06月08日 08:55
アイマックさん
ご来場うれしいです。
この映画、大阪でも小さな映画館1館だけでの上映です。地味だけど、ヒタヒタと怖さがつのってくる話でしたよ。
主演女優は、チラシに書かれてるほどすごくきれいには見えなかったけど、「ある子ども」と全然違ってて演技ってすごいなと思いました。
Posted by HIROMI at 2008年06月08日 10:41
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