2016年09月03日

ストリートオーケストラ

 極度の緊張から、サンパウロ交響楽団の最終審査に落ちてしまったヴァイオリニストのラエルチ。彼のイライラから四重奏団の仲間もバラバラに。家賃の支払いにも困った彼は、仕方なく、NGOが支援するスラムの子供たちの音楽教師に応募する。
 
 周囲に貧しい家がひしめく、フェンスに囲まれただけの青空教室。子供たちは演奏以前のレベルで、楽器の正しい持ち方も座り方も知らず、集中するどころか、勝手に立ち歩いたりケンカを始めたり。
 子供たちの態度にキレてしまうラエルチだったが、厳しい父のもと幼い頃から神童と言われ、今も父の期待を背負っている彼にとって、スラムはいるべき場所ではなかった。

 ところが、授業中にお菓子を売りつけた男に「警察を呼ぶ」と言ったことから、ラエルチはギャングに目をつけられるが、銃で脅されながらも見事な演奏をしたことから、風向きが変わっていく。多分子供たちは、ラエルチが地区や自分たちから逃げ出さなかったことに信頼したのだろう。
 だが、練習日を増やすことになると、アル中の父親の世話や、小さい兄弟の世話など、彼らの置かれた境遇の厳しさが浮かび上がるのだった。

 少年院帰りのVRは、カード詐欺のグループに加わっていて、ギャングのクレイトンに借金があるという。彼の周りには、いわくのありそうな男がたえず現れる。
 一人抜きん出た才能を見せるサムエル。大人しい彼だが、家では病気がちの母と強権的な父がいる。そして、経済的な理由で授業を諦めなければならない、と言い出すのだった。

 子供たちは、集中して次第に腕を上げていく。問題を抱える家庭に育つ彼らにとって、教室は安心できて、自分の価値を確認できる大切な居場所なのだ。合奏自体、まず自分が練習して上達したうえで、仲間と心を合わせないとできないこと。しかも曲は、バッハやシュトラウススなどの高度なクラシック。
 家を出て転々としても、サムエルは片時も楽器を離さない。彼がバラックの入り口で弾くヴァイオリンの美しさ。それにVRが民族楽器で合わせる軽妙なハーモニー。逆境を振りほどいていけそうな、可能性がきらめいていた。

 だが、その陰で二つのことが進行する。クレイトンが借金の件でVRたちを脅し始め、クラブのトイレであわや殺人が起こりかける。一方、子供たちのために奔走していたラエルチに、再びオーディションの知らせが届き、彼は自分の夢に再び向き合う。そして、ラエルチがサムエルに、近い別れを知らせて悲しませた直後、悲劇が起こるのだ。

 警察にサムエルが射殺される場面も、それに抗議してスラムが火に包まれる暴動シーンも、あまりにもリアルで、やりどころのない怒りと悲しみがはりついていた。個人の希望や未来が、暴力や恐怖にかき消される。
 だが、生徒たちは、結束して演奏会を成功させた。今後バッハを弾くたび、彼らはサムエルを思い出すだろう。彼らがずっと活動を続けていて欲しい。
posted by HIROMI at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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