2017年01月07日

弁護人

 新たに業務が許された不動産登記に目をつけ、裁判官から弁護士に転身したソン・ウソク(ソン・ガンホ)。高卒で、建設現場で働きながら身を興した彼には、世の中を騒がせていた学生のデモなど、勉強をさぼる方便にしか思えなかった。だが、商売が軌道に乗って金もうけにいそしんでいたある日、なじみのクッパ食堂の息子ジヌ(イム・シワン)が、突然行方不明になる。息子をさがしあぐねた末に、突然裁判の開始を知らされた母親スネ(キム・ヨンエ)に助けを懇願されたソンは、二人で向かった拘置所で、傷だらけになったジヌの姿に驚愕するのだった。

 1981年、軍のクーデターで大統領になったチョン・ドゥファンは、反政府運動を激しく弾圧し、多くの学生や労働運動家を捕えていた。ジヌが逮捕されたのは、学生が集まった読書会の夜。突然私服の男たちが礼状もなしに踏み込んで、警察署ではなく人目のない廃屋に連れ込むと、目をそむけたくなるような拷問が始まる。衰弱と恐怖から、警察が言うがままの証言を受け入れても、それを「作り話」だという意識を漏らすと、またも拷問。仲間同士の証言が食い違うたびにも、さらに拷問が加えられていく。

 初めから事実がないのだから、警察が望む矛盾のない証言など、無理なことだ。恐ろしいことに、取り調べる側は、自白以外の証拠を持っていないうえ、捕えた者たちを初めからはっきり容疑者だとも思ってはいない。彼らの意図は、反共のための「予防」で、罪をでっち上げて世の中にさらし、恐怖によって反政府の芽を摘むことなのだ。

 ジヌの弁護を引き受けたソン。彼が金を稼いだのは、家族の生活をよくするためだった。親しくしていた店のスネも、古くからの恩を感じていた人だった。母親の切なる願いに動かされて、事件を調べたソンは、国家と警察組織が一体となった冤罪事件に気付くのだ。不動産登記の業務を司法書士から奪ったと非難されても、学歴を弁護士仲間から軽蔑されても、金の亡者と言われても、ひるまず我が道を進んでいたソンは、今度は、非国民と言われても、家族を脅されても、自らの信念を貫いていく。彼の強さは変わらない。だが、世の中のいいとこ取りのような生活から、権力を敵に回すことを選択した彼は、別人のような気迫に満ちていた。

 長い裁判シーンが圧巻だった。憲法と刑法を盾に、被告の手錠をはずさせる。共産主義の証拠とされたソ連在住の学者の書物について、著者が本当はイギリスの外交官で共産主義と無関係だということ、本がソウル大で推奨されていることを調べ上げる。「ソウル大が反国家団体なら、検事も裁判官も反国家団体の出身者なのか」とたたみかけ、相手を黙らせた場面は胸がすいた。拷問で取り調べ得た警監チャ・ドンヨン(クァク・ドウォン)に、「主権は国民にある。お前が国家だと言っているのは、軍政府で、お前はその手先。人権を蹂躙するお前こそ、国を滅ぼす害虫だ。」と迫るシーンも。
 だが、写真を見せても拷問の事実を認めない。裁判長もグルの出来レース。最大の見せ場は拷問の目撃者が現れて証言をする場面だが、それも卑劣な手段で潰されてしまう。警察国家の底知れない恐ろしさ。

 80年代の韓国は、本当に過酷な時代だったと思う。だが、秘密保護法や、またも国会に提出される共謀法を思うと、同じような暗い日本の未来を想像してぞっとする。孤独だったソンの闘いが、多くの仲間を生んでいたラストシーンに希望があった。 
posted by HIROMI at 11:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/178306303

この記事へのトラックバック