1939年、日本統治下の朝鮮半島。盗賊団に育てられた孤児のスッキ(キム・テリ)は、藤原伯爵を名乗る男(ハ・ジョンウ)に依頼され、上月伯爵の姪・秀子(キム・ミニ)の侍女となった。藤原伯爵は、実は朝鮮人の詐欺師で、スッキに協力させて秀子を籠絡し、彼女が相続する莫大な財産を奪おうというのだった。
人里離れた上月家の屋敷。書院造りの日本家屋と、ヴィクトリア式の洋館が合体した屋敷は、広大すぎて屋敷というより宮殿のよう。広い書斎や地下室は、暗くて堅牢な牢獄のようだ。
主人である上月(チョ・ジヌン)も朝鮮人で、成り上がるために日本人女性と結婚していた。秀子はその女性の姪で、両親を失くした幼い秀子を、女性が上月家に引き取ったのだった。だが、叔母は自殺し、秀子は天涯孤独の身となっていた。
屋敷を一歩も出たことのない秀子を、スッキは扱いやすい相手と見るが、美しさに驚き惹かれつつ、次第に彼女の孤独に同情していく。そして、藤原の求愛にとまどい、信じていいのか迷う秀子に助言しているうちに、思わず彼女と深い仲になってしまう。だが、少々心が揺らいでも、スッキの目的はあくまで金だった。ところが、藤原の手先として、秀子をうまくだましているつもりのスッキは、実は秀子にだまされていたのだった。
幼い頃から叔父に春本を読まされていた秀子。大人になった彼女は、叔母がそうしていたように、名士たちを集めた客間で、卑猥な物語を朗読させられる。ずばり性器を指す言葉や、生殖器の状態の微に入り細に入る描写を、日本語で聞くのは衝撃だった。だが、サド風の描写を真に迫って朗読していても、秀子は人形のようで、彼女がエロスを感じているようには見えない。彼女はいわば、男たちの性的な妄想の生贄で、彼女自身の感情や自由は抑圧されているのだ。叔父は、幼い頃から折檻と恐怖で彼女を支配していた。がんじがらめの境遇から逃げたい秀子は、上月と組んで、自分の身代わりを探していたのだ。
互いに騙し合い、相手を陥れるつもりのスッキと秀子。物語は3部構成で、1部はスッキの視点で、2部は秀子の視点で描かれる。同じ出来事が、まったく違う様相を帯びてくるのが、おぞましくもスリリング。最後は
藤原の視点に移るのだが、手慣れた誘惑者のはずの彼が、実際には秀子の心身を全く手に入れられないまま、もがき続けるのが滑稽だ。何度もどんでん返しが起こり、先の読めないストーリーの果て、彼は自分が想像もしなかったワナに落ちる。
浴槽につかっている秀子の口に、スッキが指を入れて歯を削るシーンなど、若い二人の間には、初めからエロスが匂い立っていた。危うげな雰囲気から一転、全裸のあからさまなレズシーンは強烈。幼い頃から性的な搾取を受けていた秀子にとって、スッキとの関係は、やっと手に入れた性の解放だったろう。ゆがんだ敗退的な男たちの妄想に比べて、二人の姿は健康な力にあふれていると思う。
2017年03月21日
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