たみおのしあわせ

　父の信男（原田芳雄）と二人暮らしの民男（オダギリ ジョー）が、父の上司の勧めでお見合いをし、挙式にこぎつけるまでのお話。

　ストーリーにからまない、何でもない場面がすごくおかしい。
　民男が見合い相手の瞳（麻生久美子）と、喫茶店の壁にある用途不明の栓を見つけて店員に尋ねるが分からない。父の職場の愛人宮地（大竹しのぶ）が、応募してきた女性の履歴書を見て「結婚してるんだ」と安心する。面倒そうに連絡を取り次ぐ事務員ののそっとした様子。瞳からプロポーズされ、家に走って帰って報告し、靴の走りやすさに感激して喜ぶ。相手に反応できなかった悔しさもなく、能天気でズレてる。父が宮地を家に連れて帰って来たのに、他人の気配がし、女が腕にからみついてるのに鼻をクンクンいわせ続ける。ｅｔｃ、ｅｔｃ・・・。
　とにかく、日常にありそうな何気ない場面に、細かい観察眼が発揮されていながら、雰囲気も展開もシュールな、不思議な作品だった。

　不器用でダサク、いかにもモテない君のくせに、いつも見合い相手を断っている民男と、息子の結婚に心をくだく、女性関係が途切れない父。対照的な二人なのに、動作がシンクロしている場面が多いのもおもしろかった。机の同じ側に肩を寄せて正座する場面。母親の浴衣を着た瞳に欲情する民男、彼女を妻と見間違えて一瞬うろたえる父。キスした高揚感でにやけてる民男と、向かい合って腰かけてる父の姿勢がそっくり。
　究極のシンクロは、挙式の最中。宮地とおじの透（小林薫）が抱き合う場面を見て心が重くなり、誓いの言葉を言えない民男と、瞳との関係に不安を抱える父。手をつないで逃げる「卒業」のパロディ場面は衝撃的。

　登場人物の背景に細かい説明はないが、瞳はいわくありげで、多分さんざん遊んできた子。このまま彼女と結婚すると、親子で三角関係はまぬがれないから、父の決断は正しかったのかもしれない。でも、いわくありだからこそ、彼女は民男と結婚の決意をしたわけで、彼女を逃した彼は、今後そうやすやすとは結婚にこぎつけないだろう。
　ただ、父を裏切っている女性と自分の結婚が民男心の中でどうつながったのかは不明で、父はともかく、民男の行動は謎だ。最後、母の幻影を追って草むらに入る民男。浴衣の場面と同じ、母への執着が繰り返される。息子を追う父。結局、父と亡き母の三人の暮らしが、民男にとっての幸せだった、ということなのか。

　「お墓と離婚」で公衆電話をかける場面が多かった忌野清志郎が、今度はやたら携帯ばかりにかまってる男の役。メールをしてる若者だらけの喫茶店の風景と同じく、携帯社会への風刺なんだろうか。清志郎目当てで観たんだけど、味のある俳優たちの演技に堪能できたし、「お墓と離婚」よりもおもしろかった。

　民男たちは、今後透に家を追われるのか、信男と宮地と透はどうなるのか、話の続きが知りたいです。
　

Comments

ＴＢありがとうございます。
清志郎のとぼけた演技、なかなかでしたね。
『お墓と離婚』では公衆電話をかけてたんですか？
じゃあ監督は間違いなく『お墓と離婚』を観てますね（笑）。
もしかするとそれで清志郎に出演依頼したのかも（笑）。

Posted by きぐるまん at 2008年08月14日 09:58

きぐるまんさん
コメントありがとうございます。
映画で清志郎を見たのは4作めなのですが、どんな役でもいつも今回みたいなとぼけた雰囲気です。演技力はもうひとつでも、不思議にインパクトな存在感で光ってる、と思うのはひいきしすぎかな（笑）。

Posted by HIROMI at 2008年08月14日 11:59

HIROMIさん
コメント＆ＴＢありがとうございました。う〜ん確かに瞳も宮地もなかなかです。結局民男と伸男の決断はあれで良かったと思っています。あのまま結婚したら、民男はボロボロ。伸男はどうなるのか？ちょっと気になるところですが・・・・。

Posted by mezzotint at 2008年08月23日 23:35

mezzotintさん
お越しくださってありがとうございます。
一クセある女たちに振り回される男たち、って感じでしたね。
あのまま結婚したら、瞳と親子で三角関係の泥沼になるのははっきりしているから、伸男の親心だったのでしょうね。私は実はあの場面、ちょっと感動しました（笑）。

Posted by HIROMI at 2008年08月24日 10:51

HIROMIさん、こんにちは！

観終わった直後は、なにが言いたいのかどうにも解釈できずにいました。
瞳さんは何を考えているのかわからない感じが最後までありましたが、結婚というのはそれまでは赤の他人だからそういうものなのですかねー。
結婚しても本質がわかるとういことはないのかもしれないですね。

Posted by はらやん at 2008年08月24日 12:50

はらやんさん
コメントありがとうございます！
なんともシュールな結末でしたね。はらやんさんの記事で疑問が解けた気がしました。
婚約しても変わらない瞳は、結婚しても破滅的な行動を獲り続けるでしょう。本質的に危険な女って感じで、たみおには多分荷が重すぎ。結婚しなくてよかったとは思います。

Posted by HIROMI at 2008年08月24日 20:45