2009年02月15日

厳重に監視された列車

 「英国王給仕人に乾杯!」のイージー・メンチェル監督が1966年に撮ったものだそうだ。わずか28歳だったとは。この監督の作品の多くが日本未公開というのが本当に残念だと思った。

 ナチス・ドイツ占領下のチェコ。爆撃で破壊された建物や、不安そうな顔の人々の写真にかぶせて勇ましいマーチが流れて始まるが、舞台は貨物列車しか通らないさみしい駅で、主人公は、そこで駅員になったばかりの気弱な青年だ。

 ミロシュ・フロマは内気で不器用で、自分に好意をもってくれているマーシュとのキスのチャンスもものにできない。職場の主任フビチカは正反対に手が早く、駅長室でことにおよんでは駅長を怒らせる。その駅長は、駅のまわりの鳩をこよなく愛する一方で、駅監査院に任命されるのを夢見て服を新調。そして、彼も女性客をくどかずにいられない。

 マーシュの誘いで何とかベッドインしたものの、うまくできずに絶望したミロシュは、連れ込み宿で手首を切って自殺未遂するが助けられ、早漏だがあせってはいけない、できれば年上の女性に手ほどきをしてもらうといいと医者に助言される。二日後のデートを成功させたいと焦り、駅長やフビチカに妻やお姉さんに協力を頼めないか、と相談して断られるミシュロの姿は、切実でそしてこっけいだ。

 一見のどかな駅の日常に、戦争は遠いようで近い。毎日通過する貨物列車、駅舎で交わされる、ナチスが家畜にひどい扱いをするという話、パルチザンが駅を破壊したという話。マーシュとうまくいかなかった翌朝の爆撃。突然駅にやってくるドイツ軍将校たち・・。
 ミロシュが男として恋人の期待に応えられるかどうかを追う一方で、占領されているチェコの現実が次第に迫り、突然ミシュロを飲み込んでいく。このリンクが見事だった。
 フビチカが夜勤の時に電信技士の少女を誘惑してお尻りに駅のスタンプを押すが、これを見つけた彼女の母親は、彼を罰しようと警察や裁判所をまわっていく。初めは問題にもされなかったエロチックないたずらが、ついに駅委員会にまで届き、フビチカが告発されることになる過程もスリリングだ。

 独軍の軍用列車を爆破するための装置を届けにきたレジスタンスの女性に手ほどきを受け、無事に童貞を捨てたミロシュは、今までの硬さがとれ、生まれ変わったかのよう。
 そこへ、フビチカを尋問するために知事が現れる。重大事件であるかのように、ことの次第をこと細かく質問するこっけいさ。その横で手はずどうり爆弾を用意するミロシュ。もうすぐ列車がやってくる。今まで何事もまともにできなかった男は、今大仕事をするのだ。やってきたマーシュに少しだけ待つようにいう彼。その後は彼女と今夜の約束をするはずだった。

 おかしくて、エロチックで、切実で、希望があって、そして突然それが消し飛ぶ悲しさ。呆然として、しばらく立てないような感覚に襲われた。 
posted by HIROMI at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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