2009年02月28日

悲夢

 キム・キドクという監督を知らなかった。これは、何と言えばいいのだろう。現実と幻想が溶け合っていて、もやの中のようでいて鮮明で、感情的であり観念的であり、謎に満ちている。そして、激しくて切ない。観た後も、まだ夢の中のようだった。

 交通事故を起こした夢を見たジンは、そのあまりの鮮明さに事故現場に行き、それが本当に起こっているのを知る。そして、自分が見た夢のとおりの行動を、現実でしてしまっているイ・ランと出会う。ジンは日本語を話し、彼以外は韓国語。このあり得ない設定は、すべて彼が見ている夢だからか。

 ジンはかつての恋人を今も愛し、ランは逆にかつての恋人に憎しみを抱いている。二人は正反対の立ち位置だが、憎しみ続けているのも相手への執着。未だに全く忘れられないという点で、実はとても似ている。ランがジンの部屋で自分からつけるペンダントは蝶の形。といことは、ランは実はジンで、ジン自体がランの見てる夢なのか。精神科医が言ったように、二人は一人ということか。

 ランはジンがかつての恋人と愛し合う夢を見るせいで、自分の気持ちとは正反対の行動を取ってしまうことを責める。が、片方が寝ている時にもう片方が起きていれば、夢と現実がつながらないことを知った後、眠っているジンの傍らを離れて、ランが自ら元カレの所に出かけるのはなぜなのか。睡眠を監視し合うために一緒に過ごすことで次第に心が近づた二人が、お寺を散歩していると、急にランが消え、戻って来くると蝶を追っていた、という。ランがジンの夢と無関係に動き出していくのが不安感を掻き立てた。

 お互いの元恋人同士が、恋人だという設定も怖い。ジンが夢で愛する女の相手はランの憎む男で、相手が変わりながら同じような場面が繰り返されるまがまがしさは、それ自体が悪夢のよう。車の中で愛し合う元の恋人たちをジンとランが見つめていると、夢中になっている男が次第に女を口汚くののしり出し、それが草原の中で四人がそれぞれ相手を変えながらののしり合う場面に変わる。狂ったようなむき出しの感情が、非現実的な世界で血を吹いているのが、本当に怖かった。
 恋人どうしが、相手に向けて自分の負の感情を投げることはもちろんあるが、別れたかなり後に、同じ場面を繰り返すだろうか。激しい言葉は、自分の心の中で沸騰させるのが現実だろう。しかも、四人が交互に全身の力を振り絞って絶叫するのはあり得ない。もしかすると、これは四人ではなく、深く傷ついた一人の心の状態を表しているのだろうか。

 精神科医の言葉どおりなら、ジンとランが愛し合えば、夢は終わるはずだ。ところが、夢は終わるどころか暴走していき、嫉妬に狂ったジンが元恋人の相手を殺すと、現実の世界で、ランが同じ相手を殺していた。これはジンとラン二人の話のはずだが、悲劇は二人のもと相手を巻き込んでしまう。
 あれほど愛していたはずの女が狂ってしまっていても、ジンが心配するのはランのこと。これは混乱している。自分が夢を見てランが異常な行動をするのを防ぐために、ジンは眠らないように壮絶な努力をするが、二人同時に眠りさえしなければいいことをすでに知っているのに、それを忘れているのは、やはりジンが夢を生きているからなのだろうか。

 結局ランはジンの夢だったのか。二人は現実ではどうしても生きてはいけないのか。ランのために死んだジンのもとに蝶になったランが飛んでくる。死んだはずのジンが彼女に気付いて微笑むと、握り合った二人の手のアップが映されるラスト・シーンが美しく、悲しかった。
posted by HIROMI at 22:34| Comment(2) | TrackBack(11) | 日記
この記事へのコメント
TBありがとう。

「夢」そのものが、ありえない「現実」で構成されるものですからね。
いろんな解釈が成り立つし、ふたりを分裂人格、多重人格ととらえることも、できるでしょうね。
Posted by kimion20002000 at 2009年09月02日 00:42
kimon20002000さん
お越し下さってありがとうございます。
夢を見てる時はその夢の「現実」を生きているわけですものね。夢が現実を浸食していき、それに二人が翻弄されるさまが、まがまがしく、切なく、ものすごく鮮烈な世界でした。
Posted by HIROMI at 2009年09月02日 07:57
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