2009年03月08日

おくりびと

 同じ場面に立ち会うことを想像するのが怖くて、気になりながら観にいけなかった映画。でも、アカデミー賞に輝いたということなので、思い切って凱旋上映を観に行った。

 楽団が解散し、チェロ奏者をやめ、妻(広末涼子)と二人で故郷の山形に帰った大悟(本木雅弘)は、旅行業と勘違いして納棺業の会社に就職してしまう。納棺の解説ビデオの撮影に出演させられ、死体の役を必死でやっている姿が笑えた。鼻に入った髭剃りクリームが息でピクピク。死後二週間たった一人暮らしの老人の納棺作業も、壮絶な現場で苦労する姿がコミカル。仕事が終われば呆然としているが、彼を襲っているのが戸惑いやショックで、嫌悪ではないのが伝わってきた。何とか彼を仕事に引き込みたい社長(山崎努)も、二人の間に入るけだるそうな従業員も、食えない感じだけど、憎めない人たち。

 腐乱死体の仕事を終えた夕食に、つぶされた鶏を見て嘔吐した大悟は、まるで子どもが母親にしがみつくように妻を求める。死の近くにいると、おぼれないように思わず生の方へ泳ぐのだろう。まるで温室のように植物を茂らせた部屋で、社長がフグの白子をうまそうに食べながら、「生き物は生き物を食うんだ。死ぬつもりでないのなら、食わなきゃならない」と話す場面も、印象的だった。

 今日の妻の顔が今までで一番きれいだ、と礼を言って泣く遺族の言葉に、仕事に対する思いが変わる。場面から笑いが消え、次々関わる仕事の場面に写るのは、若者たち。交通事故で死んだ少女、自殺した性同一性障害の青年。人は、年老いて死ぬばかりじゃないのだ、と改めて思った。

 大悟が仕事に打ち込むようになる一方、人の死に関わることへの周囲の偏見と向かい合うことになる。幼馴染はまともな仕事に変われといい、何をしているのかを知った妻は実家に帰ってしまう。だが、その幼馴染の母親が仕事中に急死し、納棺師としての仕事を二人に見せることになる。亡くなった人の体を清め、化粧をし、野辺の旅立ちを手伝う儀式は、残された人たちの亡くなった人との別れを手伝う作業でもあるのだろう。死者に敬意を払うことは、死者に対する残された人の思いと、彼ら自身の悲しみに敬意を払うことだから。

 大悟が、幼い頃に母と自分を捨てた父親の納棺をする場面が感動的だった。ひどい父親だったからから、と拒否する彼に、従業員が自分も子どもを捨ててきた、と告白する。ひどいことをしたと思うからこそ、会いたくても会えない親の心。父の遺体をそのまま棺に入れようとする業者を、思わず押しのけて作業を始めても、父はただの見知らぬ男だ。
 だが、その手の中に、かつて父と交換した小さな石を見つけると、昔川原で遊んだ時の情景と共に思い出した父の顔が、今自分がきれいにした死者の顔と重なっていく。父を着替えさせながら、大悟の頬をつたういく筋もの涙が美しかった。彼は、父を許し、失くしてしまっていた絆を取り戻すために、納棺師になる運命だったのかもしれない。

 足袋の代わりにルーズソックスをはかせてもらったおばあちゃんに、孫たちが穏やかに声をかける。おじいちゃんの顔に、順番にキスマークをつけていって、みんなでありがとうを言う。それぞれの最後は、その人の人生を写している。
 棺に眠るまだ小学生くらいの子ども。旗をはためかせながら昔ながらの野辺送りをする人の列。広い畑、水鳥の飛ぶ川。そこに流れるチェロの旋律。生きることは死と隣り合わせ。その生をいとしいと感じる。画面を見ながら何度も涙が流れた。

 社長役の山崎努が味のあるクセ者な感じですごい存在感。モックンは、思いつめた表情もコミカルな演技も清潔な感じがあった。とにかく、この映画がアカデミー賞を獲れて、本当に良かったと思う。
posted by HIROMI at 19:21| Comment(0) | TrackBack(20) | 日記
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