優しく親切な巡査だった竹田八生は、三枝課長に気に入られて刑事に抜擢されるが、実直さゆえに上司と組織に従ううちに、次第に警察の行う犯罪に手を染めていく。
暴力団と共産党はお断りの「警察バー」なんてものがあり、上司の言葉は絶対で、寮生活も勝手に決められるし、勧めに従ってタバコも始めれば、子どもの名前も恣意で勝手につけられる。個人の生活にずかずか侵入してもそれは「ファミリー」だから。でもこれって、マフィアの語彙と一緒でしょ。
このあたりまでは、ふーん、すごいなあ、という感じだった。でも、ヤク中の男が人質を取って立てこもった事件で、警察が覚せい剤をちらつかせて犯人の気をそらせた場面を、トップ屋の草間がカメラマンの北村に撮らせ、それをネタに警察からネガ料をもらおうとするあたりから、不穏な空気が濃くなっていく。
草間は、山崎刑事と会った直後に恐喝容疑で逮捕。犯人は拘置所で不審死。そして、やくざから銃を押収するヤラセ場面を撮って草間が再び動き始めると、三枝の指示で彼を黙らせることに。竹田は口で警告するが、それを手ぬるいと感じた山崎は、暴力団を使って襲わせ重傷を負わせる。
良心のとがめを感じながら従っていた竹田も、5年後には立派な”普通”の刑事。取調べで暴力をふるい、ヤクの取引をする暴力団をガードして大枚を稼ぎ、風俗で16歳の少女を抱く。だが、銃押収事件にからんでいた刑事が殺され、一方で草間が立ち上げた警察の不祥事情報のサイトが注目されると、三枝は竹田を主犯にして彼を逮捕。すべて彼個人の仕業にしてもみ消そうとし、トイレには自殺用のカミソリが。
この間の流れが早くて分かりにくかったが、一連托生といっていた組織が、都合が悪くなると部下をスケープゴートにする非情さが恐ろしかった。ヤバイ命令をし、その報告を聞く時の三枝の口癖は「みんなお前の一存でやったことだよなあ」。この卑怯さ。次に切られるのが自分かも知れないのに、こんな上司のため良心を捨てている悲しさ。企業の汚職事件を連想した。
暴力団との癒着も恐ろしかったが、ショッキングだったのは、普通の交番の描写だった。道を尋ねた女の子を交番の中に呼んで意味ない職質でからかう。女の子を物色しながらのパトロール。たむろしているだけのヤンキーをしょっ引いて、手錠をかけて殴る、蹴る。押収した覚せい剤で中毒になった警官が布団の上で震えている。酔っ払いにわざと自転車を盗ませて、中に放り込む。大きな建物の中の見えない一角で、というのでない分、よけいにゾッとした。でも、でも、まさか。地域のおまわりさんて、いい人たちじゃないの?
この映画が暴いているのは、警察だけではない。警察発表のコピーに群がり、それを垂れ流すだけのマスコミ。独自の取材で事件を追っている姿は、虚像なのか。腐った警察にポチと呼ばれるほど、誇りを失くした姿がおぞましい。
風俗店の監視カメラに写っている、と脅されて、警察の言うとおりに動く裁判官。裁判が始まると報道は退廷させられるって、そりゃないでしょ。傍聴席は警察のサクラで満席。自殺未遂となった竹田が、意を決して話そうとしても、一切の発言が禁じられる。
警察と裁判所がつるむなかで、警察犯罪が公正に裁かれるはずはない。独房に入れられた竹田が、一人で意見陳述する場面が圧巻だった。「警察にいると、人間でいられない。なぜなら、権力の犬だから。私ら何をやっても大丈夫だって、部長や署長に言われたんだ。ポチを批判して何が変わるんだ」首に巻いていた包帯を格子にかける。これから二度目の自殺が起こるのだろうか。
現実の事件を考えても、ありそうな話。だが、せめてデフォルメと考えたい気がする。でも、竹田が「国民の皆さんはバカだから、こんなことは漫画の世界だと思っている」というセリフは、聞かなければならないだろう。3時間が長く感じないよくできた映画だった。だが、ずっとアドレナリンが出っぱなし。これが実態なら、本当に恐ろしい。見ている時の感覚を引きずって、昨夜はあまりよく眠れなかった。
2009年04月13日
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