2009年04月19日

マルセイユの決着

 久しぶりに見るフィルム・ノワール。ジャン・ピエール・メルヴァルが1966年に撮った「ギャング」のリメイクだそう。

 脱獄して仲間のもとに戻ってこようとするギュ(ダニエル・オートゥイユ)。同じ頃、マヌーシュ(モニカ・ベルリッチ)が経営するバーにヴァンチュール・リッチの手下が押し入り、タバコの密輸にからんだ対立でジャンが殺されるが、マヌーシュの用心棒アルバンが、敵の一人を撃ち殺す。
 その後、家に帰ったマヌーシャが、チンピラに脅かされているところにギュが来て、彼女とアルバンを助けた後、チンピラを殺害。チンピラはヴァンチュール・リッチの弟ジョー・リッチの手下だった。
 逃亡するため、マヌーシャの待つマルセイユに向かうギュ。マヌーシャは弟テオに手はずを頼む。だが、金塊強盗の助っ人を探していたヴァンチュールに誘われたギュは、資金調達のために最後の仕事をやり遂げようとする。

 金塊強盗のために必要だった男が殺されたこと、先客があって、逃げるための手立てに手間取ったこと、その先客オルロフ(ジャック・デュトロン)に、テオがギュのことを話すこと、オルロフが強盗に誘われるが気乗りがしなかったことなど、ギュのもとに強盗の誘いが来るまでの伏線が周到だ。だが、もしギュが、ためらいなくマヌーシャの金を当てにしていたら、危険な仕事に加担しなかったろう。昔かたぎな誇りと、老いぼれだと思われたくない意地が、彼を危険に追い込んでいくのだ。

 ギュを追うプロ警部(ミシャル・ブラン)が老獪。バーでの撃ちあいの後にやってきた時も、誰もが口を割らないことを最初から見抜いていて、しかもことの真相はお見通し。チンピラ殺しでも、殴られた痕からボスの名をしゃべっていること、車の中で殺害されたこと、などを次々と見抜く。そして、犯人がギュであることも。薬きょうが金塊強盗のものと一致し、目指す犯人を確信する彼だが、同時にギュのメッセージも読み取る。つまりそれは「皆殺し」。

 ギュとブロ警部の対決は、勝負が長い。泳がせておいて、ありもしない仲間割れを演じ、思わず口をすべらせた仲間の名を録音。仲間を売ったことにされたギュが自殺未遂し、再び脱獄したところから、怒りに狂った彼の復讐と汚名挽回が始まる。

 最初のチンピラ殺害の場面でも、チンピラたちをボスの家に案内させると思わせているが、マヌーシュたちに自分の名を呼ぶことを禁じるので、見ている方も、てっきりジョーに復讐しに行くのだと思ってしまう。同じように、拷問で痛めつけた刑事を狙うことも、オフロフに代わって強盗仲間に会いに行く場面も、ギュの起こす行動が予想を超えていて、思わぬ展開に息を飲んだ。プロ警部の推理も彼の行動には追いつかないが、「皆殺し」という結果は、まぎれなくその通りだった。
 
 暗い画面に、安い部屋の灯りも、ベッドも、自動車のヘッドライトも、それを映す濡れた道路も、みな赤い血の色だった。堅気に戻ったマヌーシュとアルバンが自動車で去って行き、狭い路地に朝が来ると、はじめて画面に普通の人々の生活が溢れる。長い悪夢から覚めたようなエンドロールが見事だった。
 
 
posted by HIROMI at 15:05| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記
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