2009年06月18日

夏時間の庭

オルセー美術館開館20周年記念の企画で製作された映画「夏時間の庭」。

 光あふれる広い庭、元トリエの古い屋敷。年老いた母エレーヌ(エディット・スコブ)の誕生日パーティーに集まった3人のこどもたち。母は、長男のフレデリック(シャルル・ベルリング)に、自分の死後、大叔父の残した美術品と家を売るようにと遺言を聞かせる。

 母の予感どうりの、突然の彼女の死。フレデリックは、母の残したものを守って子どもたちまで引継ぎたいと考えるが、次男のジェレミー(ジェレミー・レニエ)は中国に生活の拠点を決め、そこで家を買う予定だし、長女のアドリエンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は、アメリカ人と結婚するのでフランスにはめったに帰って来れないという。大切な場所に対する、兄弟間の温度差。愛着や思い出の前に、現実の生活が立ちはだかる。
 結局、美術品には莫大な相続税がかかることから、オルセー美術館に寄贈することになり、家の購入と子どもの養育にお金が要るジェレミーの都合もあって、家の売却も急ぐことに。

 家の売却をめぐって一瞬ぶつかるジェレミーとフレデリック。だが、二人は、妹がいつも忙しく動き回っているのは、もしかすると自分たちから逃げているのかも、と笑う。職人だった父を軽蔑し、叔父に夢中だった母の思い出。快活で聡明な母は、父の妻として、やり切れない横顔も残していたのだ。そして、母の知人は、大叔父と母が実は恋人同士だったと打ち明ける。
 歳月の降り積もった家から、思い出の品が引き出され整理される時、秘められていた関係や、家族の親しい息遣いが、改めてくっきりと形を現すのだろう。だがそこに非難はなく、過去に向けられるまなざしは優しい。

 美術品の整理のために手をつけられる家の中は、整理とは正反対にごちゃごちゃの様相。フレデリックは電話機に貼られた母のメモに目を留め、アドリエンヌは、母が自分にと残してくれた小さな食器を胸に抱く。ともに、ほんの少し前の母との思い出につながる物。たくさんの遺品に囲まれていても、故人のかけがえのなさは、そうしたささやかな物に込められているのだと思う。

 家政婦のエロイーズはとまどった様子。長年にわたって家を整えていた彼女にとって、散らかった家の中は受け容れがたいはずだ。抱えてきた花をブラックモンの花瓶に生け、花瓶には花を生けないとダメだという。家や調度の処分に何の意見もはさめない彼女こそ、最も家に愛着をもっていたかもしれない。寂しげに去っていく姿が心に残った。

 フレデリックの娘が、窃盗とマリファナで捕まり、彼を悩ませる。祖母の屋敷に友人たちを連れてきて、大音響の音楽やらで大騒ぎ。だが、恋人にふと漏らす彼女の言葉に胸がつまった。祖母にお話を聞かせてもらった庭。それがなくなってしまう。
 親とはまともに口もきかない少女の心に、祖母との思い出が生き続けている。彼女は、祖母の家を失くすさみしさを親に話さないだろうし、親も想像しないだろう。だが、豊かな庭の思い出はこれからきっと彼女を支え、そうやって祖母の家の残像が引き継がれていくのだと思う。 
posted by HIROMI at 21:02| Comment(2) | TrackBack(13) | 日記
この記事へのコメント
庭の緑や花がすごく美しく、まるで絵画のようでしたね。
亡くなった後の「家」や品物の処分、つらいですね。思い出までも無くなってしまうようで、、、、、。淡々としてすすむけれど、じわりじわりと心に入ってくる映画でした。
Posted by MAO at 2009年06月19日 19:51
MAOさん
先日はありがとうございました。コメントも感謝です!
本当に庭がきれいでしたね。広いのに木立ばかりの林ではなく、手入れが行き届いたこじんまりさもなく、すごいなあと思いました。
大切な人を亡くして、同時に思い出の家や品物を手放すのは辛いでしょうね。あっさりとしてるけど、深い感じの描き方がよかったですね。ラストが心にしみました。
Posted by HIROMI at 2009年06月20日 09:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/29893607

この記事へのトラックバック

映画「夏時間の庭」(2008年、仏)
Excerpt:      ★★★☆☆  パリ郊外の旧家を舞台に Camille Corotの絵画をはじめとした 膨大な美術コレクションを巡る 家族の物語。  原題は「L'HEURE D'ETE」。          ..
Weblog: 富久亭日乗
Tracked: 2009-06-18 21:34

オリビエ・アサイヤス監督の「夏時間の庭」を観た!
Excerpt: 銀座テアトルシネマへ「夏時間の庭」を観に行ってきました。「ホテル西洋」のある建物で、菊竹清訓の設計、竣工は1987年、僕は初めて行った映画館です。昔、シネラマの「テアトル東京」があったところです。シネ..
Weblog: とんとん・にっき
Tracked: 2009-06-18 22:26

夏時間の庭
Excerpt: フランスのオルセー美術館の20周年企画として全面協力を受け制作された作品。フランスらしい豊かな風景の中に描かれた家族の絆はとても温かいものでした。主演は『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー女優と..
Weblog: LOVE Cinemas 調布
Tracked: 2009-06-18 23:39

夏時間の庭
Excerpt: フランス映画「夏時間の庭」をみてきました。 東京では銀座のテアトルシネマのみなの
Weblog: かりんのつれづれなるblog
Tracked: 2009-06-19 07:15

『夏時間の庭』 (2008)/フランス
Excerpt: 原題:L'HEURED'ETE/SUMMERHOURS監督:オリヴィエ・アサイヤス出演:ジュリエット・ビノシュ、シャルル・ベルリング、ジェレミー・レニエ、エディット・スコブ、ドミニク・レイモン、ヴァレ..
Weblog: NiceOne!!
Tracked: 2009-06-19 08:11

『夏時間の庭』 L'heure d'été
Excerpt: まぶしい緑。やわらかな光。優しい気持ち。 ☆☆☆☆☆ ある夏の日、パリ郊外の町ヴァルモンドワにある一軒の邸宅。母の誕生日を祝うために三兄弟とその子ども達が久しぶりに集まった。開館20周年を迎え..
Weblog: かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
Tracked: 2009-06-19 23:40

映画 「夏時間の庭」
Excerpt:  イル・ド・フランスの田舎屋敷に、いま成人したきょうだい三人の家族が集まり、母親の誕生日祝いのパーティを開こうとしている。母親エレーヌが住むこの家には、美術館に展示されていてもおかしくない芸術品が無造..
Weblog: After the Pleistocene
Tracked: 2009-06-26 09:56

『夏時間の庭』
Excerpt: 今日はずっと気になってて、鑑賞できないままだったジュリエット・ビノシュ主演の『夏時間の庭』を観てきましたー。 銀座テアトルシネマに観に行ってきたので、CLUB C会員でたまっていたポイントを使って無..
Weblog: cinema!cinema! ミーハー映画・DVDレビュー
Tracked: 2009-07-08 23:20

夏時間の庭◇原題: L'HEURE D'ETE/SUMMER HOURS
Excerpt:  オルセー美術館開館20周年記念作品 作品を観るまで知らなかった(汗)あのオルセー美術館開館記念で製作されたとは・・・。それにしても凄いですよね。贅沢な企画に驚き!! 残念ながら、フランスにも行っ..
Weblog: 銅版画制作の日々
Tracked: 2009-07-09 10:06

『夏時間の庭』(@「シネマのすき間」)
Excerpt: -----2週間ぶりにお邪魔したカタログハウス「シネマのすき間」。 今日、取り上げた映画『夏時間の庭』には、 普段は目にすることのできない絵画や器といった美術品がいっぱい。 なんでも、フランスのオルセ..
Weblog: ラムの大通り
Tracked: 2009-07-09 20:41

「夏時間の庭」
Excerpt: パリ郊外の家々と自然が、とても温かくて美しくて慈愛に満ちていて・・
Weblog: 心の栄養♪映画と英語のジョーク
Tracked: 2009-12-16 12:16

夏時間の庭
Excerpt:   カテゴリ 人間 製作年 2008年 製作国 仏 原題 L'HEURE D'ETE 時間 102分 公式サイト na..
Weblog: 映画大好き BLOG
Tracked: 2010-05-23 14:04

mini review 10468「夏時間の庭」★★★★★★★☆☆☆
Excerpt: フランス・オルセー美術館20周年企画の一環で製作された、美しい芸術と印象派を思わせる自然を堪能できる感動的な家族ドラマ。母から遺された貴重な美術品を整理する兄妹たちの姿を通して、いつの時代も変わらぬ人..
Weblog: サーカスな日々
Tracked: 2010-07-13 09:20