パリを眺望するカメラが、オペラ・ガルニエの正面に続いて地下の舞台装置を映す。それから、団員たちの練習風景。
壮年の指導者が若い団員の先頭で踊っているかと思えば、イスに座って団員の前で振り付けを議論してたり、姿勢の違いを何度もやり直させてたり、掛け声が英語だったりフランス語だったり。
演目別のさまざまなルハーサルが映されるが、衣ずれやダンサーの息が聞こえて、自分も固唾を呑んでその場にいるような感じ。普通の日常の風景のはずなのに、すごい迫力で圧倒された。彼らの動きはただただすごいと思えるのに、振り付けする側からは完璧ではないようで、要求されるレベルの高さを思った。
練習風景と交互に映されるのは、オペラ座の管理運営に関するさまざまな場面。振り付け師との交渉、役の調整、講師たちの会議、宣伝の企画、etc。特に、アメリカ人の大口支援者のための見学ツアーの企画やプレゼンは、夢の舞台を提供し続けるための、したたかな戦略が興味深かった。
また、年金制度改革の説明風景もあったが、ダンサーの定年は40歳で、それから年金が受け取れるという。芸術家の余生を早くから保障してるのは、さすがフランス。
カメラは、縫ったり飾りを付けたりの衣装の準備の場面や、ソースのかかった魚やシシカブやブリュレがおいしそうな食堂や、仮面の並ぶ小道具置き場など、練習場以外のあらゆる場所を映し出す。
シューズの修理、壁の塗り替え。客席の清掃場面では、オペラ座の豪華な内装とともに、シャガールの天井画が一瞬映し出されたかと思うと、地下の水路に泳ぐ魚たちが見え、オペラ座の怪人にあるように、実際に地下に水が流れてるのが分かる。窓からのぞくパリ、壁にうつる影、不意に地下の装置がまた映る。カメラの自由な動きが楽しかった。
演目は「くるみ割り人形」と「ロメオとジュリエット」以外は名前も知らなかった。「パキータ」は古典だったけど、リサーハルでも現代ものの動きは独特だった。
「ジェニュス」は群像劇だが、硬直と脱力、ぐねぐねと床を這ったり、まるで猿のような仕草に見えたり。しかもどの動きも急激で激しい。普通では決してしないような不自然な姿勢で、優美さとか均整とかとは対極に感じる。それでも妖艶なのが不思議。
「メディアの夢」は、解釈や感情の入れ方の指導から、悲劇だろうと想像したが、実際の舞台の場面は強烈だった。男女が二人で踊る場面は、官能的かつ激しい動きが、まるで格闘技を見てるような気がしたし、子ども殺害の場面では、本物の血のように見える赤で子ども二人が塗りたくられ、メディア自身も血まみれ。呆然とする背中がすごい演技力で、狂気のラストはすさまじかった。
「ベルナルダの家」では、ダンサーが獣のように叫び、これも動きが奇妙で、緊張が強く破壊的。
どれも、夢のようなロマンチックな世界とはほど遠い、不安感や緊張を強いるもので、バレエだと思っていたのとは違う舞台があったんだと思った。
ダンサーたちが踊る床は、磨き込められていて年月を感じる。跳ねたり回ったりしている彼らの影と光を映して、きらきら光っているのもきれいだった。
2009年11月05日
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『パリ・オペラ座のすべて』(2009)/フランス
Excerpt: 原題:LADANSE,LEBALLETDEL'OPE'RADEPARIS監督:フレデリック・ワイズマン出演:パリ・オペラ座エトワールほかダンサーたち、ブリジット・ルフェーブル、パリ・オペラ座職員鑑賞劇..
Weblog: NiceOne!!
Tracked: 2009-11-07 22:33
パリ オペラ座のすべて
Excerpt: 休日だというのに、早起きしてル・シネマに行ってきました!上映40分前に到着。すで
Weblog: みやこのThinking World!
Tracked: 2009-11-10 00:28
*パリ・オペラ座のすべて*
Excerpt: {{{ ***STORY*** 2009年 フランス シンボリックな円屋根の下、今日もダンサーたちが入念なリハーサルに臨んでいる。気鋭の振付家と共につくり上げてゆく演目..
Weblog: Cartouche
Tracked: 2009-12-09 23:39
シネマ『パリ・オペラ座のすべて』を観て〜芸術に関する国家的制度の違いに目から鱗
Excerpt: 映画『パリ・オペラ座のすべて』の感想
Weblog: マダムNの覚書
Tracked: 2010-05-02 05:10
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シネマ『パリ・オペラ座のすべて』を観て〜芸術に関する国家的制度の違いに目から鱗
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この作品、鑑賞されている方が少ないので、TBしていただけると嬉しいですね〜。
クールなドキュメンタリーも、フランス映画らしくてよかったです。
ご来場ありがとうございます。
意外なくらい、ブログに書かれてる人が少ないですね。劇場はかなり混んでいたのですが。
ナレーションもなく、淡々と映像が進むのに、迫力があって、画面に釘付けでした。
みやこと申します。
よろしくお願いします。
クラシックよりも、現代舞踊が多く取り上げられていましたね。パリオペラ座のレパートリーの広さが伺えました。
「ジェニュス」は、特に印象的で一度舞台を観てみたいですね〜。
最後に、tbよろしくお願いします。
お越し下さってありがとうございます。
私の方こそ、どうぞよろしくお願い致します。
バレエのことは何も分からないのですが、ダンサーたちの技や気迫に、とにかく圧倒されました。
クラシックも、夢見るようできれいでしたが、それと正反対のような現代舞踊は、びっくりです。緊張の連続でした。「ジェニュス」、ものすごく印象的でしたね。
ハチのシーン、なんの説明もないですから普通わからないですよね。
私は皇居の森の近くでハチを飛ばしてユリノキの花から蜜を採るというのを知っていたので”もしや”と思い、調べたのです。
しかしフォーションで売られているとは!
お越し下さってありがとうございます。
ダンスシーン以外にも、地下から屋根まで、オペラ座のあらゆる場面が映されて、とても興味深かったです。
屋根で養蜂って何だろうと思って、Cartoucheさんの記事を読むまでは、オペラ座と全然結びつきませんでした。
フォーションで売る蜂蜜を作るなんて、なかなか商魂がたくましいですよね。オペラ座とフォーションのコラボとなれば、すごく売れてそう。