1960年作の「地下鉄のザジ」のニュープリント上映を観た。
母に連れられて初めてパリに来た10歳のザジ。叔父のガブリエルの出迎えを受けるが、母は恋人と去ってしまい、ザジはシャルルのタクシーでガブリエルの家に行く。
恋人に抱かれてグルグル回る母、汽車と間違えてるかのように、シャルルの車に群がる人々。初めの場面から、何ともシュール。シャルルが客に押しつぶされながら「幼年期の話はよそう」といったり、名所の説明に困ったガブリエルが「何が真実かなど分からない」と言ったり、キャラクターと場面に会わない、大仰なセリフにも思わず笑った。
芸術家と名乗りながら、実はナイト・クラブの女装芸人である叔父、彼に似つかわしくない美しい妻アルべルチーヌ。シャルルの恋人だが、実はアルベルチーヌにも気があるような、酒場女のマド。ある時は謎の男、ある時は警官のトルスカイヨンは、アルベルチーヌに一目ぼれ。
そのトルスカイヨンを、未亡人のムーアックが色仕掛けで追いかけるが、彼女はガブリエルにも秋波を送る。そして、そのガブリエルを、なぜか4人のドイツ娘が、スターと間違えてバスでさらってキス攻め。クセのある大人たちの追いかけあいはクールにハチャメチャ。
そんな騒動の中心はザジ。彼女の生意気パワーは、大人たちの毒気以上に強烈。教師になって生徒をイジメたい、宇宙飛行士になったら火星人をイジメたい、という彼女は、大人たちを思い切り振り回す。
彼女の夢は地下鉄に乗ること。叔父の家を逃げ出して来たのに、地下鉄はストで動かない。がっかりしている所にトスカイヨンに声をかけられ、彼にジーンズを買ってもらったりごちそうになったりしたのに、用が終わると勝手に逃げ出す。
パサージュを抜け、道路を走り、屋根まで渡る二人の追いかけ合いが、ユーモラスでブラックでファンタジック。早送りやコマ落としを使った映像は、古いのに新鮮。
ガブリエルとシャルルと3人でエッフェル塔に上る場面も印象的。階段で降りるザジとシャルルの長回し。ガブリエルはあわやと思う危ない場所で高らかに歌い、落としたメガネは下にいる夫人の顔にかけられるし、彼はなんと風船で無事落下。下にはドイツ娘の乗ったバスが待っている。すべてがこんな調子につじつまが合っていく。
だが、ナンセンスだけどのほほんとしてた画面は、なぜかマドとシャルルの婚約パーティーで大混乱に。未亡人もドイツ娘も、クラブの踊り子もいるなかで喧嘩が始まり、ケーキを顔にぶつけ、頭をビンでなぐる。
料理がひっくり返されイスが飛び、店内がめちゃめちゃになった所に、なぜか暗黒外の親分アラシッドになったトルスカイヨンが、子分と共に殴りこみ、さらにひどい混乱に。抑えていた破壊の衝動をぶちまけたよう。この衝動はどこからくるのだろう。
この映画を観て気になったのは、ばかばかしい場面の端に、深刻な映像がちょっとだけのぞくこと。
ザジが謎の男に声をかけられる場面では、道路の端に、ぼろぼろになった女がくず折れるし、蚤の市では、「掘出し物」の看板を首にかけられた赤ん坊が、棚の上で震えている。最後の乱闘場面は、市民と警察の衝突のニュース映像のように見えた。
最後、母親とともに汽車に乗り込んだザジは、感想を聞かれて「別になにも。年をとっただけ」という。このアンニュイなセリフ、「勝手にしやがれ」に似てるよね。
最後まで誰にも好かれない小憎らしいザジだけど、ザジ役のカトリーヌ・ドモンジョは、とってもかわいかった。
2009年11月22日
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09-287「地下鉄のザジ 完全修復ニュープリント版」(フランス)
Excerpt: 全てはうたかたの夢 母親とパリにやってきた少女ザジ。駅に着くなり、母親は迎えに来ていた叔父のガブリエルにザジを預け、恋人と消えてしまう。ザジの楽しみは地下鉄に乗ることだったが、あいにくストで運休中..
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