2010年01月11日

牛の鈴音

 韓国の田舎に暮らす老夫婦の日常を追ったドキュメンタリー。

 79歳のチェ爺さんは、40歳という年取った牛を飼っていて、それに荷車や鋤を引かせて畑仕事をしている。長年連れ添ったイ婆さんも、年老いた体で農作業。

 チェ爺さんの左足は、子どもの頃の針治療の失敗で、筋肉が萎縮し、棒のように細い。それを引きずって柴を集めたり、牛のために草を刈ったり。地面を這いつくばっての作業が痛々しいが、彼に使われる牛も、ものすごくよぼよぼ。年輪が外見に表れるのは、人間も動物も同じなんだと分かる。
 耕運機や田植え機での作業を横目に、チェ爺さんは相変わらず牛を使うが、牛のためを思って除草剤を使わないので、草むしりもしなければならない。効率の悪いしんどい仕事で、9人もの子どもを育てたというから、どんなに過酷な毎日だったろう。
 牛ばかりを大事にして、私のことは二の次、牛のためによけいに仕事が大変だ、とイ婆さんは文句を言いどうし。年を取っても楽ができないどころか、老身に鞭打つ日々が続く。

 寡黙な爺さんと、文句を言いどうしの婆さんが対照的。新しく買った牝牛が産んだ子牛が言うことをきかず、売ってしまおうと婆さんが言い、爺さんはそれを承知したものの、買い手が来たらテコでも売らない。老牛の世話が大変だから、売ってくれと婆さんがいい、爺さんはその通り牛を市場に連れて行くが、法外な高値をつけて買い手を遠ざけ、また牛と一緒に戻ってくる。
 口うるさい妻に急かれながら、結局、爺さんは自分のしたいようにしているのだ。牛に自分が乗った車を引かせて売りに行き、帰りも同じく、牛に引かせた荷車の中なのがユーモラス。

 子牛がだんだん大きくなっていく以外、二人を取り巻く風景は何も変わらない。場面はいつも年老いた夫婦が働く姿と、年老いた牛のおぼつかない足取り。荷車や牛舎や畑や、畑沿いの長い道。
 子どもたちが帰ってきたり、市場が映っただけで、大きく場面が変わったように思うほど、毎日同じことが繰り返され、そんな単調で地味な日常が、そのまま地味に映されている。何世代前かの祖先は、日本でもみなこういう生活をしていたんだろう、と思う。寂しげで温かく、侘しくもがんこ。

 爺さんは頭痛に悩み、足も痛い。心配する婆さんの言葉には、爺さんに対する情と、独りになる不安が混じっている。そして、ついに弱っていた牛の寿命が尽きて、爺さんは牛の鼻輪と鈴をはずしてやる。一心同体だった牛との別れの場面が静かで悲しかった。
posted by HIROMI at 16:36| Comment(0) | TrackBack(9) | 日記
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