ずっとあなたを愛してる

　空港で一人座る女性の孤独で悲しげな顔。若い女性が近づき、二人は車に乗り込む。二人は姉妹で、息子殺害の罪で十五年の刑を終えた姉ジュリエット（クリスティン・スコット・トーマス）を、妹レア（エルザ・ジルベルスタイン）が自分の家に迎えたのだ。夫のリュックと二人の娘、リュックの父親との生活が始まる。

　ジュリエットをめぐる家族の反応はさまざま。レアは献身的だが、リュックは彼女を警戒し、夫婦のデートもそっちのけで帰宅するが、娘のプチ･リスは急に現れたおばに興味津々。そして、口のきけないリュックの父も、ジュリエットに温かな視線を送り、彼女は次第に居場所を見出す。

　姉妹がお互いの距離をゆっくり縮めていくさまが、丁寧に描かれて心をうった。
　ジュリエットが事件を起こした時、レアはまだ幼く、面会に来たのは出所直前。十五年ぶりの再会を果たした二人には、お互いに知らない過去が横たわるのだ。
　ジュリエットは妹との会話もぎくしゃくしているが、受け容れているレアの方も、姉が話す過去の何気ない場面を思い出せなかったり、急に湧き出した過去に戸惑う。
　レアが語る事件後の両親の態度は容赦ないものだ。姉を死んだと思えと強制し、世間にレアを一人っ子だといって、ジュリエットの存在を消していた。世間と隔てられただけでなく、存在そのものも否定されていたとは。一方、レアは実子より養女を選んでいて、レア自身も姉の事件で意識の奥深く傷ついている。
　だが、レアの元にくることを選ばせたのは、ジュリエットのなかに残る幼い妹との記憶。そして、完全にジュリエットを忘れていたはずのレアは、両親の強制に従いながら、ひそかに姉の名を毎日ノートに刻んでいた。
　相手の思いを知らず、そして自分の思いを伝えるすべのないまま、二人は互いをずっと愛していたのだ。レアの方が、おそらく強い自覚だったろうが。

　世間がジュリエットに示す反応も複雑だ。息子殺害を聞いて即不採用とか、就職はなかなかままならない。彼女が優秀な事務能力をもつのみならず、元医者だったことも分かり、ますますナゾめいて見えた。
　レアの同僚たちとの食事の席で、ジュリエットの長い不在の理由を聞かれた場面が印象的。センセーショナルな理由を並べる男に、真実を明かすジュリエット。だが、一同はそれを真に受けずに笑ってすます。非難やののしりとは違っても、背を向けているのは同じ。彼らにとって、彼女はただ変わり者の侵入者だ。
　ところが、ただ一人、レアの同僚ミシェルだけは、彼女の言葉を信じるといい、その重さと思いを受けとめた。
　仕事を通じて犯罪者を観察した経験が、ミシェルの眼を公正にしている。そして、彼自身にも私生活を語らない孤独の影がある。肩を並べて歩くことを繰り返しながら、ジュリエットが自分に対するミシェルの恋を受け容れていく過程も、散歩をするようにゆっくりだった。

　プチ・リスに、昔レアと連弾したピアノを教える時のほほえみ。仕事で正式採用が決まったと言う安堵の表情。みなが隠れて驚かし、誕生日を祝った時の笑顔。こわばったジュリエットの顔が、ふっと緩むのが美しい。

　そして、ついに息子を殺した理由が語られるが、息子の病気を家族にも相談しなかった時点で、彼女はすでに孤独だったろう。できた釈明をしなかった以前に、罪を犯したことで、彼女は一生の孤独を背負ったのだろう。
　だが、今の彼女には許しと愛がある。泣きやんだジュリエットが、「私はここよ」というラスト。最初と同じくジュリエットの顔がアップで映る。毅然とした静かな表情は崇高さがあった。

Comments

はじめまして。
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ご迷惑だったらすみません。突然、失礼しました。
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Posted by yujin at 2010年02月03日 00:25

yuinさんは以前に来られたｈikakuさんですね。貴サイトのコンテンツは、クレジットカード、ネット証券、バイク保険、美容整形外科・クリニック等なのに、なぜ？このお申し出は不可解です。

Posted by HIROMI at 2010年02月03日 07:44