2010年02月27日

トルパン

 国立民俗博物館の「みんぱくワールドシネマ」で、「トルパン」を観た。カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ、東京国際映画祭最高賞&監督賞を受賞しながら、日本では劇場公開されなかった作品だそうだ。

 カザフスタンの乾燥したステップ地方が舞台。姉夫婦の家族と暮らす青年アサは、トルパンという名の女の子の家に結婚を申し込みに行くが、彼女は、カーテンの向こうに隠れたまま姿を見せない。水兵でもあるアサは、黙り込む彼女の両親の前で、眼の間に噛み付いてやっつけないと口から血を吸われる、とか、タコに襲われた時の恐怖を大きな身振りで話すのが可笑しい。
 トルパンはカザフスタン語でチューリップの意味。アサの住む地方ではたった一人の独身女性で、嫁をもらわないと一人前の遊牧民になれないアサは、必死。一日もかかる道を再び訪れ、同じく黙りこくる両親にまたタコの話をしてしまう。
 だが、彼女は都会に憧れ、大学にも行きたい。初めから相手にされていないというのに、耳が大きいのが嫌いと知ってヒモで押さえたり、アサは顔も知らない相手に想いを募らる。諦めきれずにまたまた家を訪れて、部屋の戸口に顔を寄せて、髪がステキだ、手がステキだ、内気なところも好きだといい、答えがないのにいら立って実力行使で中に入ると、いたのは彼女ではなく羊。放心しているのを羊に慰められる場面もユーモラス。

 いつも水平線が映る広い土地。羊やヤギの群れに牛が数等ついて行き、その後ろを馬に乗った羊飼いが追う。突然の竜巻に空に砂が舞うが、車が発進しても、羊の群れが進んでも、地面に立つ砂煙で視界がさえぎられる。テントの中でも風の音が鳴り、砂がおとなしい昼にも、ごうごうという風の音は止まない。

 群れから離れてお産する羊。人がそれを見つけると、お産を助け、子どもの口に息を吹き込む。ケガした子どもラクダを運ぶ獣医のあとを、攻撃しながら追っかける母ラクダ。アサの小さな甥は、棒を馬にして走りまわり、カメをおもちゃの車の代わりに地面にこすりつける。人よりずっと動物が多いが、人も動物たちもそれぞれ表情豊かだ。

 アサの友人のポーニーは、車で商品を街から運んでくる。車に貼ってあるポルノ写真。スピーカーから流れるポップな音楽。彼は画面に映らない都会の影だ。陽気な彼はアサを都会に誘うが、アサの夢は、立派な遊牧民になること。
 遊牧民の社会も、今は企業的な経営者と雇用される農牧民に二分されていて、昔のような平等な集団ではないという。アサの姉夫婦も、移動はボスの許可をもらわないといけないし、アサはボスに羊を分けて欲しいと頼んで断られる。

 トルパンへの望みがかなわないアサは、いつも自分に命令する姉の夫と折り合いが悪い。ところが、道で羊のお産を助けたことで、運が違う方に向いてくる。姉夫婦に移動の許可が降り、彼らから離れるつもりだったアサも一緒についていく。
 移動することはすべてをリセットすること。どこまでも砂漠しか見えない所だが、別の土地では違うことが起こるはず。アサの夢がかない、純朴な彼が幸せをつかんで欲しい、と願わずにいられなかった。
posted by HIROMI at 21:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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