2010年05月15日

オーケストラ!

 元指揮者のアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)は、ブレジネフ政権のユダヤ人排斥で仲間をかばったことで職を追われ、今はボリショイ劇場の清掃員。しかもそんな境遇がすでに30年も。そんな彼が、仕事中にパリのシャトレ座からの演奏依頼のFAXを見て、ボリショイ管弦楽団になりすましてパリで公演することを思いつく。指名するソリストは、フランスの人気ヴォイオリスト、アンヌ・マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)。

 ブレジネフ政権下のユダヤ人の悲劇は知らなかった。人民の敵呼ばわりされ、職業を奪われ、屈辱にまみれて生きてる状況はシビア。途方もない計画はさらなる転落を賭けている。でも、映画のテイストは思いっきりコミカルで、笑いに満ちていた。

 元の仲間たちを、元チェロ奏者のサーシャ(ドミトリー・ナザロ)運転のおんぼろ救急車で訪ねて回る。マネージャーに選んだのはなんと、かつて自分たちを弾圧した先鋒のイワン(ヴァレリー・バリノフ)。アンドレイを支える、激情家で人情あついサーシャがいいが、KGBにいながら、「パリ」と聞くとひとつ返事で引き受けたイワンの活躍もすさまじかった。
 マフィアの結婚式で、銃撃戦のなかを這いながら、富豪にスポンサー契約を持ちかけるわ、シャトレ座に条件をゴリ押しするわ。強面な彼と、彼のこだわるセーヌ遊覧と特定のカフェでの食事が釣り合わないのが面白かった。ヘンな条件に困惑しながら、イワンと交渉する、シャトレ座支配人の海千山千ぶりもなかなかのものだった。

 偽造パスポートの発行場所が、空港だなんてのけぞる。普通最も計画の頓挫を心配する場面は楽にスルーするけど、パリ到着からが困難の連続だった。
 といっても、困難に悩むのは主人公とサーシャとイワンだけで、あとの団員は困難の原因そのもの。ロシアでも惨めに見えた団員たちは、花のパリではホームレスのようによれよれ。ホテルのロビーで現金を要求して騒ぐわ、散り散りに街で商売をしたりして、リハーサルにも出てこない。そして、最も肝心のアンヌまでが、共にした食事で酔ったアンドレイの言動に失望して出演をキャンセル。

 もうこれ以上ないという負の状況の一方で、元天才指揮者とアンヌの共演ということで、チケットは完売。一体どうなる、というところ、サーシャの説得とギレーヌの告白でアンヌが戻り、アンヌを見て驚いた団員の「レアのために戻れ」というメールで団員たちが集結。やっとかと思えば、ぎこちない始まり。

 そして、ここから、これまでのドタバタや回り道をすべて取り返すかのように、完璧な演奏が繰り広げられる。
 う〜ん、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ってステキ。聴いたことはあると思うけど、今まで、感動まではしてなかった。こんなに心を動かされるのは、ダメだと思ってた人たちが、驚くような挽回を見せるから?奏者が心を通わせ合っているのを感じるから?レアの苦難が説明されるから?今までの物語のエネルギーが放出されるから?

 演奏中に、アンドレイのアンヌに対する思い入れが何だったのか、かつての仲間のソリスト・レアのことが告白されるが、これはアンドレイのアンヌへの説明であると同時に、観衆への説明になっている。演奏中にこんな風に独白しているわけはないから、演奏後にアンヌに話したことを、この場面にかぶせているのでは、と思う。
 大成功のあと、世界中を回る様子にも、ブラボー!と思った。
posted by HIROMI at 16:17| Comment(2) | TrackBack(22) | 日記
この記事へのコメント
HIROMIさん、こんにちは。
TBありがとうございました。
この映画は面白かったですね。
イワンは共産党の復権を夢見て、かつてのフランス共産党との連携今一度の思いでフランス行きを利用しようとしてたんですね。だからかつて共産党員の溜まり場だったあのレストランにこだわって・・・すでにフランス共産党の力はないのに。
このエピソードも時代の変化と取り残されたものの悲哀(第三者から見ると滑稽です)を感じました。
私も耳にした事はある程度で音楽に疎いので、チャイコフスキーの曲を聞きなおしてみようと思いました。
Posted by ryoko at 2010年05月23日 11:55
ryokoさん
私の方こそ、お越し下さってありがとうございます。
ほんとに面白い映画でしたね。
イワンがパリに執着するのは、一瞬、文化へのあこがれかと思いましたが、目的は政治だったんですね。といっても、実際には昔の活動の思い出に惹かれていたんじゃないでしょうか。仲間とか華々しい演説とか、彼の青春と栄光の場所だったのでしょう。そこで夢をもう一度、と思っても、カフェがなくなっていたように、時代も過ぎていて・・。そんな姿が、可笑しいやら、悲しいやらでした。
クラシックはほとんど聴かないのですが、あのヴァイオリン協奏曲、感動しました。
Posted by HIROMI at 2010年05月23日 18:08
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