2010年07月06日

パリ20区 僕たちのクラス

 国語教師のフランソワ。新学期が始まった教室。時間を無駄にするなといえば、1時間の授業なんてない、50分だ、といい、名前を覚えるから書けと言えば、去年も先生に習ったのに、と言う。
 こんなヘリクツなら、思春期のこどもたちは普通にいうだろうし、あしらえばいことだろう。だけど、授業で本を読むのを拒否したり、後での指導にも無礼なのは、教師としては我慢がいかないはず。ノートの渡し方、謝罪のセリフまで、細かい教育をしてるのに、相手の心に入っていかない。教師への敬意や規律を求めれば求めるほど、生徒との亀裂が浮き上がっていく。

 一方、フランソワの授業は、引き出した生徒の反応に彼自身が逐一反応するという手法。一種の連想みたいで、言葉のやりとりから考えを深めさせようとし、決まった教科書もなさそうで、これはかなりの技量のいるやり方ではないだろうか。社会の教師は、啓蒙思想の文学を読ませて見ようとしているし、フランスの教育は教師の裁量が大きそうで、面白いと思った。
 だが、そんな風に丁寧に反応をすくい上げるほどに、生徒たちの負の反応にフランソワ自身が足をすくわれていく様が痛々しい。

 クラスの子供たちの人種はさまざまで、白人のこどもの方が少ない感じ。黒人同士でもアフリカやカリブ海など、それぞれの出身地を意識していて、応援するサッカーチームが違う。アラブ系の子も中国人の子も。フランスに暮らしてるからといって、みんながチーズの匂いを好きなわけではないらしい。個人懇談で、フランス語の分からない親に子供が通訳。言葉の壁から、経済的な貧しさが想像できる。

 マリ出身のストレインは、どの教師からも問題視されていて、他の生徒との言い争いからフランソワにも暴言を吐く。もし、フランソワが他の生徒たちとの間でもストレスを抱えていなければ、クンバの時のように、後で二人で話す選択を取っていたかもしれない。ところが、閾値を越えたと感じた彼は、ストレインを校長室へ。そして、この後の成績評定の場で、フランソワが彼のことを能力の限界だといったと知り、ストレインの心は一気に離れていく。
 ストレインが写真で作った自己紹介を、フランソワが黒板に貼ってみんなに見せ、ストレインがはにかんだ笑顔を見せる場面もあったのに。評定会議の場で、フランソワ自身は、懲罰だけでは指導の効果がない、と訴えていたのに。

 成績評定の場に父兄や生徒代表までが出席するのは、お国柄だな、と思った。ストレインにさらなる反発を植えたのは、いい加減な態度でその場にいたエスメラルダとルイーズがあげつらった言葉じり。そんな二人の態度を非難するうち、フランソワが口走った言葉が、女生徒たちの猛反発を招き、言い合いになるなか、ストレインが席を立ち、止めた生徒を振り切ろうとしてカバンの留め口がクンバの顔に当たってしまい、これが原因になって、ストレインは懲罰会議にかけられることに。

 教師から憎まれていると思い込む生徒と、言葉遣いに留意させながら、自分も悪い言葉を使ってしまう教師。しかも、彼はその生徒に誤解されたまま、本心は不本意なのに、彼を学校から追い出す手続きをしなければならない。生徒たちの反発が高まり、フランソワと激しく対立。感情的に反発する複数の相手を、自分の気持ちも不安定なまま、感情的にならずに説得するのは難しいと思う。

 自分への厳しい通知を、母親に自ら通訳するストレイン。彼は父親の怒りに触れてマリに送り返されるのだろうか。不法滞在だったウェイの母はどうなったのだろうか。勉強が何ひとつ理解できなかった、と突然告げるアンリエット。
 物語がその後を見届けずに唐突に終わるのかと思うと、やはり活発な言葉のやり取りで進む授業風景が映る。生徒が少し成長し、教師と生徒の関係も成長してるような光景が好ましかったが、フランソワの根気の成果なのだろうか。

 ストレインの態度は問題だが、授業を妨害してるわけでも教師を無視してるわけでもなく、ひどい不良ではないと思う。それでも彼の運命に心を寄せることより規律を重んじて、転校という懲罰のあるフランスの制度も、カルチャーショックだった。
posted by HIROMI at 23:30| Comment(2) | TrackBack(14) | 日記
この記事へのコメント
TBありがとうございます。

日本の教育とは根本的に異質な部分があるなあと、理屈ぬきで実感させられる映画でしたね。
緊張感のあるいい映画だと思います。
Posted by きぐるまん at 2010年07月10日 09:44
きぐるまんさん
お越しくださってありがとうございます。
一瞬一瞬が生徒との対決のような授業や、成績の評定の仕方や、懲罰会議や、いろんな場面がカルチャーショックでした。生徒が背後に抱える問題も含め、最後まで緊張感に満ちていましたね。
Posted by HIROMI at 2010年07月10日 11:26
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