2010年08月08日

ボローニャの夕暮れ

 1938年のイタリアのボローニャ。美術教師のミケーレ(シルヴィオ・オルランド)は、自分に自身が持てずに恋愛に縁がない娘のジョヴァンナ(アルバ・ロルヴァケ)をいつも励ましていた。ある日、彼女が人気者のダマストリと話すのを見たミケーレは、進級の可否が自分の手中にあることをダマストリに告げ、ジョヴァンナと仲良くして欲しいと頼む。初めての付き合いに有頂天になり、パーティーにもおしゃれして出かけるジョヴァンナ。そんな中、学校でジョヴァンナの親友マルチェッラの他殺死体が発見される。
 パーティーで、ダマストリに自分だけと踊ってくれと頼んで騒動を起こしたり、不機嫌に部屋に閉じこもったり。娘の変調を心配していたミケーレは、娘が犯人ではないかと危ぶむが、母のデリア(フランチェスカ・ネリ)は、洗面所に血がついたタオルのことを聞かされても取り合わない。そして、ダマストリの証言でついにジョヴァンナが逮捕される。

 慎ましやかで平凡な家庭だが、この一家のきしみは初めから伝わってくる。父は娘を溺愛し、妻のことも愛しているが、母は父に冷淡で、娘とも距離がある。温厚で大人しい父と、美しく危険な香りさえする母。
 一人娘のジョヴァンナは内気で不安定で、夫婦の間で「問題を抱えてる」と話されるが、事件の解明が進むにつれ、彼女が精神的な障害をもっていることが明らかになっていく。罪を自覚しないばかりか、自分は被害者だといい、ダマストリをマルチェッラから救ってあげたという。精神病院に入れられると、面会に来た父に、ダマストリにここに来ないように言って欲しいと頼む。彼が来ると思っていること自体が奇妙だ。

 そんな娘を、足しげく何度も何度も見舞う父。フェンスごしに話しながら歩く二人の姿は、なぜかそれまでの暗い画面よりもずっと幸せそうに見えた。だが、母はまったく面会に来ない。ジョヴァンナは、母の黒い手袋をねだり、これを身につけたら、誰よりも上品だとうれしそうにはしゃぐ。
 母の不在を埋めるためかと思われた手袋だが、精神科医は、ジョヴァンアが母と自分を比べていること、母が父とは別の男性を好きでいることに苦しんでいると分析した。
 母が事件の証言で話したお祭りの話。次々と相手を換えてダンスする母。不安そうに座っているジョヴァンナを父はエスコートしようとするが、彼女はそれを振り切り発作を起こしてしまう。母が、娘に遠慮するべきだったと語るあの場面に、ジョヴァンナの苦悩の本質が現れていたのだ。

 父は、何かと世話をしてくれる親友の警官セルジョと妻の間のシンパシーに気づいていて、彼に妻を託そうとして家を出、戦争の混乱のなか、彼女の行方は分からなくなる。
 どんな状況になっても娘に寄り添い、見守り続ける父の姿は、感動的だった。そのそばで、いつも母を待つ娘。
 父の心情はもちろん、娘の内心さえ次第に近づいてくるが、母の心は、結局最後までベールの向こうのように感じられた。絆の強い二人に疎外感を持っていたという母。娘は自分を必要としているのに、心を開かないのは彼女の方だ。戦後、ジョヴァンナが彼女を見つけた時、母が見せた輝く微笑が奇妙に思われた。彼女の側からすれば、家族に自分の居場所を見つけるまで、長い時間がかかったということかもしれない。だが、これは結局、長い間妻と母を待っていた、父と娘の物語なのだろう。

 棺に向かってムッソリーニ風の敬礼をしたり、警察手帳を見せると値引きされたり、映画館が無料だったり、戦中のイタリアの様子が興味深かった。下院の廃止やドイツとの同盟、その記事をうれしそうに窓に貼るセルジョの妻。彼女もセルジョも、事件のために周りから疎外されるミケーレたちを真摯に支えた。そんな善意の人たちが、一方でファシズムを熱狂的に支持している。そして、その彼らの運命も、戦争の渦に飲み込まれていく。古い記憶を紡ぐような、セピア色の画面が印象的だった。
posted by HIROMI at 09:54| Comment(2) | TrackBack(4) | 日記
この記事へのコメント
はじめまして、BCさんのところからうかがいました。
普通、映画紹介をするときは、なるべくあらすじは簡略化して、自分の感想を書くようにしてるんですが、この映画に関しては、あらすじに触れずに書くことが出来ませんでした。
他の方のブログを拝見しても同じで、なかなか興味深い現象だと思いました。
イタリアの公務員については、恐らく当時よりはマシでしょうけれど、国鉄などは、一家の主人が国鉄職員だった場合、家族は死ぬまで無料とか(それも一等)信じられないぐらい厚遇されています。そういう面を見られるのも映画の良い所ですね。
Posted by がっちゃん at 2010年08月12日 15:26
がっちゃんさん
ご来場ありがとうございます。お忘れになっていますが、確か2回めのお越しだと思います。
私は、この映画に限らず、いつもあらすじに触れずに感想を書くことはできないのですが、この映画は、物語が進むにつれて平凡に見える家族の真実が明らかになっていき、それぞれの葛藤と感情描写がそれに絡むし、考えだけを書くのは難しいのかもしれませんね。
警察官が優遇される場面は、ファシズム体制下で警察が力をもっていたことを描いているのだと思いました。イタリアでは公務員が優遇されるのは、当時から現在に至るまで一般的なことなんですね。知らなかったです。
Posted by HIROMI at 2010年08月12日 23:51
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『ボローニャの夕暮れ』(2008)/イタリア
Excerpt: 原題:ILPAPADIGIOVANNA監督・脚本・原案:プーピ・アヴァーティ出演:シルヴィオ・オルランド、フランチェスカ・ネリ、アルバ・ロルヴァケル鑑賞劇場 : ユーロスペース公式サイトは...
Weblog: NiceOne!!
Tracked: 2010-08-08 10:51

『ボローニャの夕暮れ』・・・ ※ネタバレ有
Excerpt: 2008年:イタリア映画、プーピ・アヴァーティ監督&脚本&原案、シルヴィオ・オルランド、フランチェスカ・ネリ、アルバ・ロルヴァケル出演。
Weblog: 〜青いそよ風が吹く街角〜
Tracked: 2010-08-08 20:25

ボローニャの夕暮れ
Excerpt:  ロマンティックなタイトルについ惹かれて、『ボローニャの夕暮れ』を渋谷のユーロスペースで見てきました。 (1)タイトルから、この映画はイタリアの古都を背景とする心温まるヒューマンドラマかなと思ってし..
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2010-08-08 20:29

映画:『ボローニャの夕暮れ』
Excerpt: 久々にイタリア映画を観てきました。今日はネタバレ必至なので、まだごらんになってない方は読まないでぇ〜。逆にご覧になった方は是非ご感想を!!!
Weblog: 日伊文化交流協会
Tracked: 2010-08-12 15:36