2010年08月31日

ぼくのエリ 200歳の少女

 一人きりの部屋で、オスカーは「ブタの鳴きマネをしろ」と口ばしる。冬なのに上半身に服を着ず、手にはナイフを持って、少年のたたずまいは謎めいて不穏。少年が言ったのは、同級生が彼に放った言葉で、彼は毎日のように彼らにいじめられていたのだ。同じアパートに女の子が父親のような男と引っ越してきたが、窓には妙な目張りが。そして、男は毎夜出かけては殺人を犯し、宙吊りにした死体から血を抜き取っていた。

 学校での苦境を母にも言わず、孤独な彼は、中庭で引っ越してきた少女エリと出会う。薄着で、へんな臭いのする風変わりな少女。キュービックのコツを教えてくれ、いじめられて顔に傷を受けた日にはやり返せばもういじめられない、と励ましてくれ、飴をあげると無理して食べてくれた。二人は仲良くなり、オスカーは彼女を好きになるが、歳を聞くとだいたい12歳、といい、「女の子じゃなくてもいい?」という。

 エリがヴァンパイアであることはすぐに分かるが、彼女はやはり実際は男の子なのだろうか。それに、彼女と同居している男は何者だろう。保護者のようにも僕のようにも見え、自ら顔をつぶして入院している所に来たエリに、自分の血を吸わせて死んでいく。エリは、助けてやろうと近づいた相手や、恨みもない相手を容赦なく襲うが、なぜかオスカーのことは守ってくれる。オスカーが友だちを欲しいと同じように、彼女も自分と同じ孤独を知っている人物を探していたのだろう。

 この映画は、レンズの焦点が極端だった。画面中に顔や背中が大写しになったりするが、カメラが少し引いた場面でも、近景以外はぼんやりかすんでしか映らない。オスカーの家でもそうだが、エリがスポーツクラブにいるオスカーを見ている場面でも、はっきり映っているのは手前のエリの頭だけ。逆に、大きな風景を映す時は、近くにも遠くにもはっきり焦点が合っていて、エリの同居者が死体を運び、木に吊るしている場面は雪の積もる木立や道がくっきりと映るし、エリが被害者に飛びかかる場面もそうだ。
 視界の悪い画面は、オスカーとエリの寄る辺なさと、次に何が起こるのかわからない不安定な世界を表しているのだと思う。父とゲームをしている所に父の友人が来て、二人が酒を飲みだす場面も、部屋や周囲がほとんど見えないなか、突然の客は顔しか映らず、別に何も起こらないのに不安感が漂っていた。全てがはっきり映っているのは、起こってしまった凄惨な殺人場面だけだ。

 エリがヴァンパイアだと気づいたオスカーは、エリの部屋にあったお金を盗んだものだと考え、初めて彼女に冷淡にふるまう。いつものように突然訪ねてきたエリが「入ってもいい?」と聞くと、あいまいな返事を返した。すると彼女は顔中から血を流し、オスカーは思わず彼女を抱きしめた。オスカーがいじめる相手を殺しても自分が生きたいと思っているように、生きるとはそういうことで、自分を理解して受け止めて欲しい、という。彼女には生きるすべは他にないので、彼女の行為は、善悪の判断の範疇にないのだろう。

 だが、彼女を受け入れるということは、おぞましい殺人とともに生きるということ。エリに励まされて同級生を傷つけたオスカーだが、エリを探しにきた男を彼女が殺した時、血まみれの死体を見ても、オスカーは叫びもしない。いじめを受け、一方で殺人事件の記事をスクラップしていた彼は、暴力に親和性をもっていたともいえる。
 汽車の中で、鞄に入ったエリとモールス信号で話すオスカー。この映像で、初めてエリの元同居者の姿とオスカーが重なった。彼はこのあと、あの同居者のようになっていくということだろうか。
 
posted by HIROMI at 22:18| Comment(4) | TrackBack(9) | 日記
この記事へのコメント
プールで、オスカーを助けた後の、エリのきれいな瞳と、オスカーの笑顔を観るにつけ、同居者とは違う未来がある様思いました。
Posted by わたあめ at 2010年09月01日 00:27
わたあめさん
ご来場ありがとうございます。
かばんにエリを入れて汽車のなかにいる場面も、幸福感に満ちていましたね。エリが生き続けるために誰かが必要という以上に、二人の間には、かけがえのない純粋な絆があると思います。
Posted by HIROMI at 2010年09月01日 07:13
TB ありがとうございます。

米映画にはない 美しさを感じました
演出も巧いですね
Posted by リバー at 2010年09月01日 22:21
リバーさん
お越し下さってありがとうございます。
スウェーデン映画は珍しいですが、雪の木立とか、冬の風景が血生臭さを浄化している感じでしたね。演出も独特だったと思います。
Posted by HIROMI at 2010年09月02日 07:07
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