2010年09月27日

13人の刺客

 将軍の腹違いの弟であるため、 残忍な非道な行いにもお咎めのない明石藩主・松平斉韶(稲垣吾郎)。そればかりか彼には次の老中職が待っている。彼が幕府で権力をふるうのを阻止するため、お目付け役の島田新左衛門(役所広司)に斉韶暗殺の密命が降り、新左衛門は集まった12人の配下とともに、参勤交代の途中の斉韶を襲う。

 斉韶の非道ぶりのすさまじさ。参勤交代で立ち寄った他藩の女に乱暴した上、その夫を惨殺するわ、自分を諌めるために切腹した家臣の家族を殺すわ、一揆の首謀者の娘に残虐の限りをするわ、まともに見るのが辛い場面の連続。家臣に命じてではなく、自ら手を下す様は、快楽殺人の犯人そのもの。

 新左衛門が、国のため万民のためにという大義をかざすのに対し、斉韶の家来・鬼頭半兵衛(市村正親)は、主人を守ることが侍の本義だとして新左衛門を牽制。彼らは剣の同門で、二つの集団が出会うまでは、互いの動きを読み合う二人の知恵比べで、これもざわざわと緊張感に満ちていた。

 ろうそくだけが明かりだった江戸時代はこうだっただろうな、と思える部屋の感じがリアル。主人公が密談する部屋も、大勢のために食事を作る所も、広い廊下も、藩主の部屋さえ薄暗くて、焔の揺れが不穏な雰囲気をかもし出していた。
 そんなリアル感が街道にも、森の中にも村にもあるし、殺陣場面も同じでものすごい迫力だった。斬りあいが進むにつれて、侍たちが血糊と泥にまみれていく。

 たった13人で200人を相手にするために、いろんなワナを作り、柵の中に敵を囲い込み、弓矢でやっつけていた時は、このまま楽勝なのかと思ったのに、すぐに刀で斬りあいに。柵には抜け道があり、それは味方のワナでもあるが、形勢を悪くする原因でもあったようだった。狭い通路のあちこちから敵が押し寄せ、初めの囲いが意味ないようになっていく。
 もっと弓矢を使って、斉韶を早く討っていても、主君の仇を討とうとする敵の集団を相手に、同じ戦いが繰り広げられたのだろうか。1時間以上にも感じられた戦いの場面は、とにかく、見ていてぐったりするほどすごかった。

 斉韶は、戦いを見て喜び、自分が要職につけば戦国の世にしたい、といい、自分を守って死んだ家臣の首を蹴り、どこまでもモンスター。そんな彼の最後は案外とあっさりしていて、彼が犯してきた所業と釣り合わない気がした。それに、大勢の敵との戦いを生き抜いて、同門の剣豪も倒した主人公が、なぜ斉韶ごときの剣を避けられなかったのか、が残念だった。

 死んでいないとおかしい状態の仲間がピンピンで生きていたのは、うれしいけど不自然。リアルのなかにこういう設定をするのも、監督の特徴なのかも。
 二人だけが生き残ったが、彼らの共通点は、この戦いの前は侍として誰かに仕えて生きていなかったこと、待っている女がいること。上下関係の中で生き、職業も信念も侍だった者たちは、全員初めの覚悟どおりに死んでいく。
 この話はフィクションだけど、公には残されなかった史実でも、生き残った二人のような者たちによって、伝えられたかもしれないと思った。とにかく、全滅じゃなくてよかった。
posted by HIROMI at 20:21| Comment(11) | TrackBack(27) | 日記
この記事へのコメント
役所さんは、立場的に自ら吾朗ちゃんの刀を受けたんだよ。
役所さんは、この大役刺客を受けた時に、侍としての死を決めていたのさ。
Posted by あかね at 2010年10月10日 16:56
役所広司と時代劇が好きなので、これは見なければ、と思い見ましたが、やっぱり役所広司は格好良かったですね。映画自体は戦闘、というより殺し合いのシーンが延々と続いて、かなりしんどかったですが、細部にリアリティがあって見応えがありました。稲垣吾郎の藩主も気持ち悪かったけど、役者としては悪くなかったと思いました。
Posted by はっさく at 2010年10月10日 19:36
あかねさん
ご来場ありがとう。多分、おっしゃるとおりでしょうね。
Posted by HIROMI at 2010年10月10日 23:12
はっさくさん
コメントどうもありがとうございます。
役所広司、カッコよかったですね。どんな役でも安心して観ていられるし、骨太な武士役もぴったりでした。稲垣吾郎は思いも寄らない配役でしたが、狂気そのもので、もう名前を聞いただけで、残酷なシーンがよみがえってきそうです。戦闘シーンも、リアルだし長いし、すさまじかったですね。
ご覧になったかもしれませんが、この二人は、「笑いの大学」で共演していて、その時もいいコンビでしたよ。
Posted by HIROMI at 2010年10月10日 23:22
> 死んでいないとおかしい状態の仲間がピンピンで生きていたのは、うれしいけど不自然。

見当違いかもしれませんが、山猿みたいな人が生き返ったのは、最後の生き残り(若い侍)の死に際の夢だったのではないでしょうか。

13人は敵といっしょに実は全員死んでいた。
ラストシーンは、お盆に迎え火を焚いて待つ奥さんが玄関口まで「はっ」として出て来たけど、生き残ったはずの若い侍の姿までは見せませんでした。
Posted by たか at 2010年10月12日 04:56
たかさん
ご来場ありがとうございます。
う〜ん、もしかするとそうなのかもしれませんが、でも、やはり二人とも生きてたのではないでしょうか。新左衛門の甥は、半兵衛の手下の最後の二人を斬っていましたし、彼の恋人が戸口に出てきた時は、顔に喜びが出ていたので、実際に、家の前の路地をこちらに歩いてくる姿を目にしていたのだと思います。
殺し合いのあと、自由に生きられる者二人が運よく生き残ったのなら、それで救いがあってよかった、と思うのですが。
Posted by HIROMI at 2010年10月12日 19:32
はじめまして。
最後観終わった時は何故山の民が生きてるの!?って疑問でしたが、みなさんの意見を拝見して思ったのですが、山の民は最後に生き残った侍の精神的な魂が人物像としてえがかれているのではないかと思いました。想ってる女の人も面影が同じなどの共通点もあります。戦闘シーンも甥の侍よりも山の民が多かったような…敵方の侍を倒してるのが不思議ですが、なにかリンクしてると思いました。
Posted by とこ at 2011年08月21日 21:21
とこさん
ご来場ありがとうございます。
「山の民は最後に生き残った侍の精神的な魂が人物像としてえがかれているのではないか」ということですが、やはり山の民は山の民、侍は侍で、別々に思えます。
とこさんに倣った言い方をするのなら、生き残った山の民の姿は、山の民の驚異的な生命力とか、生き抜く意志を現しているのではないでしょうか。
Posted by HIROMI at 2011年08月22日 19:14
初めまして。
ノベライズ読んでマンガ化されたのを読んで映画見ての思ったことなんですが、
鬼頭半兵衛(市村正親)がゴローちゃんを守った理由は、
ゴローちゃんが快楽殺人殿様になるのを許しても、殿様を辞めることは許さない「武家社会」への怒りがあった、と思ってます。
普通の藩の殿様だったら、とっくに座敷牢に入れられてますよ。
それが将軍の弟ということで、座敷牢入りもなければまともな詮議もない。
それどころかおそらく、老中職を辞退することも許されない。
だからゴローちゃんが快楽殺人殿様に育ったのであって、ゴローちゃん一人が悪いはずがない、だと思ってます。
Posted by てんてけ at 2013年06月10日 17:11
てんてけさん
ご来場ありがとうございます。コメントに気づくのが遅くてごめんなさい。
この映画、ノベライズも漫画もあったの知らなかったです。斉韶の心情をもっと掘り下げていたのでしょうか。たとえ周囲の対応に問題があり、斉韶に、藩主であるという立場からくる葛藤や苦しみがあったとしても、彼が思う存分、しかも公然と快楽殺人ができたのは、何より彼が絶対的な権力をもっていたからだ、と思うのですが・・。
ゴローちゃんの怪演、観てからずいぶん経つのに、忘れられませんね。
Posted by HIROMI at 2013年06月23日 09:32
いいねぇ。みんな色んな解釈してておもしろい。これだから映画は面白いよね!
Posted by あかまむし at 2014年02月23日 03:16
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/40965670

この記事へのトラックバック

劇場鑑賞「十三人の刺客」
Excerpt: 「十三人の刺客」を鑑賞してきました1963年の傑作時代劇を「クローズZERO」「ヤッターマン」の三池崇史監督が豪華キャストでリメイクした時代劇エンタテインメント大作。権...
Weblog: 日々“是”精進!
Tracked: 2010-09-27 21:05

『十三人の刺客』
Excerpt: 斬って、斬って、斬りまくれっ! これぞ日本映画史に残る息抜き知らずの壮絶なる死闘を描いた傑作。もうラスト50分に興奮しまくりでしたよ。 活劇時代劇の傑作と謳われたオリジナルに「これぞ三池!」色を見..
Weblog: こねたみっくす
Tracked: 2010-09-27 21:32

『十三人の刺客』は世界を目指す!
Excerpt:  トドーン!と迫るぶっとい毛筆のタイトル。黒澤映画もかくやと思わせる迫力に、三池崇史監督の覚悟と意気込みのほどが知れよう。  これぞ...
Weblog: 映画のブログ
Tracked: 2010-09-27 21:55

十三人の刺客
Excerpt: 監督は三池崇史。 出演は 役所広司、山田孝之、 市村正親、伊原剛志、松方弘樹、 稲垣吾郎、伊勢谷友介、沢村一樹、 古田新太、松本幸四郎 六角精児、、高岡蒼甫、 窪田正孝、吹石一恵等、 超豪華キャ..
Weblog: 花ごよみ
Tracked: 2010-09-27 22:23

試写会「十三人の刺客」@よみうりホール
Excerpt: 今年1番の傑作娯楽時代劇だと思います名作との呼び声も高い1963年公開の工藤栄一監督の『十三人の刺客』のリメイクです十三人の刺客価格:4,253円(税込、送料別)とにかくこの新しい...
Weblog: 流れ流れて八丈島
Tracked: 2010-09-27 22:32

映画『十三人の刺客』試写会鑑賞
Excerpt:  19日は有楽町朝日ホールで映画『十三人の刺客』の試写会を観て来ました。25日から劇場公開されますが、一足早く観られて嬉しかったぁ♪  ...
Weblog: 続・蛇足帳〜blogばん〜
Tracked: 2010-09-27 22:39

庄内映画事情PART16〜「十三人の刺客」その1
Excerpt: 庄内映画事情PART15「鶴岡まちなかキネマその2」はこちら。  開巻、その居住
Weblog: 事務職員へのこの1冊
Tracked: 2010-09-27 22:55

十三人の刺客
Excerpt: み な ご ろ し
Weblog: 悠雅的生活
Tracked: 2010-09-27 23:16

[何かしら無理矢理に話す(7:十三人の刺客)]
Excerpt: ☆工藤栄一の傑作『十三人の刺客』がリメイクされるそうだ。    ◇  私は『必殺』シリーズが好きで、特に、中学時代(四半世紀前)の夕方に再放送されていた『必殺仕業人』や『新・必殺仕置人』には猛烈に..
Weblog: 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭
Tracked: 2010-09-28 06:28

十三人の刺客 だいわはうちゅ〜o( ̄ー ̄;)ゞううむ
Excerpt: 【{/m_0167/}=42 -13-】 試写会、三池監督と役所広司が舞台挨拶で、お客さんを巻き込んで写真撮影があった。 おはよう朝日(関西ローカルの朝の番組)とかスポーツ新聞に取り上げられるかと思っ..
Weblog: 労組書記長社労士のブログ
Tracked: 2010-09-28 09:07

十三人の刺客
Excerpt: 痛快と興奮と切なさに満ちた男たちの生き様!  
Weblog: Akira's VOICE
Tracked: 2010-09-28 10:29

映画『十三人の刺客』
Excerpt:  1963年公開の時代劇映画の名作を、監督・三池崇史、主演・役所広司ほか豪華キャストでリメイクした話題作。映画の後ろ半分、ほとんど斬り合...
Weblog: 闘争と逃走の道程
Tracked: 2010-09-28 20:29

「十三人の刺客(2010)」斬って斬って斬りまくれ!
Excerpt: 300人対13人、まさに多勢に無勢。 現実的には、この戦力差を逆転することはほと
Weblog: はらやんの映画徒然草
Tracked: 2010-09-28 21:52

侍の道〜『十三人の刺客』
Excerpt:  江戸時代末期。時の将軍の弟で、明石藩主である松平斉韶(稲垣吾郎)は極悪 非道な暴君。しかし、年明けには老中への就任が決まっている...
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2010-09-28 22:59

十三人の刺客
Excerpt: 『悪人』を観ようか、コチラにしようか迷ったんだけど・・・【story】罪なき民衆に不条理な殺戮を繰り返す暴君、松平斉韶(稲垣吾郎)を暗殺するため、島田新左衛門(役所広司)の下に13人の刺客が集結する。..
Weblog: ★YUKAの気ままな有閑日記★
Tracked: 2010-09-29 22:13

映画「十三人の刺客」
Excerpt: 「十三人の刺客(2010)」(映画.com) 「十三人の刺客(2010)」オフィシャルサイト 十三人の刺客@ぴあ映画生活 十三人の刺客 - goo 映画 ○作品情報(映画.com) 監督:三池崇史 ..
Weblog: itchy1976の日記
Tracked: 2010-10-01 19:17

「十三人の刺客(2010)」斬って斬って斬りまくれ!
Excerpt: 300人対13人、まさに多勢に無勢。 現実的には、この戦力差を逆転することはほと
Weblog: はらやんの映画徒然草
Tracked: 2010-10-02 09:57

映画『十三人の刺客』試写会にて鑑賞。
Excerpt: 9月14日、芸術創造センターにて  一足早く試写をみせていただきました。  山田孝之くん勝手にサポーター[E:heart
Weblog: ほし★とママのめたぼうな日々♪
Tracked: 2010-10-02 16:49

十三人の刺客 リアルチャンバラに圧倒された!
Excerpt: いやあぁ 面白かった! 久しぶりにチャンバラらしいチャンバラを見た気分です。 それも 昔懐かしい様式美のチャンバラでなく 云ってみれば リアルチャンバラ 落合宿でのラスト..
Weblog: ぱるぷんて海の家
Tracked: 2010-10-02 22:52

『十三人の刺客』・・・殺陣それぞれの魅力
Excerpt: 片や正義のために暴君を斬らんと命を賭して戦う男たち。片やその暗殺集団から主君を守るべく命を賭して忠義を尽くす男たち。 泰平の世にあって人を斬ったことのない侍たちが、要塞と化した宿場を敵味方入り乱れな..
Weblog: SOARのパストラーレ♪
Tracked: 2010-10-03 08:49

十三人の刺客
Excerpt: 命を、燃やせ。 製作年度 2010年 上映時間 141分 原作 池宮彰一郎 脚本 天願大介 監督 三池崇史 出演 役所広司/山田孝之/伊勢谷友介/沢村一樹/古田新太/六角精児/石垣佑磨/.....
Weblog: to Heart
Tracked: 2010-10-05 20:45

「十三人の刺客」
Excerpt: <水曜日> (TOHOシネマズ・10時45分〜・フリーパス使用) 「生来の残虐な性質で、罪なき民衆に不条理な殺戮を繰り返す...
Weblog: 大吉!
Tracked: 2010-10-08 23:28

十三人の刺客
Excerpt: <<ストーリー>>幕府の権力をわが物にするため、罪なき民衆に不条理な殺りくを繰り返す暴君・松平斉韶(稲垣吾郎)を暗殺するため、島田...
Weblog: ゴリラも寄り道
Tracked: 2010-10-09 00:09

『十三人の刺客』
Excerpt:   □作品オフィシャルサイト 「十三人の刺客」□監督 三池崇史 □脚本 天願大介□原作 池宮彰一郎 □キャスト 役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、     ..
Weblog: 京の昼寝〜♪
Tracked: 2010-10-12 12:14

「十三人の刺客」斬って、斬って、斬りまくれ〜!
Excerpt: [十三人の刺客] ブログ村キーワード  三池崇史 監督が、真面目に遊ばず(?)に撮った時代劇エンタテインメント大作。1963年に製作された、工藤栄一 監督作のリメイク。「十三人の刺客」(東宝)。迫力..
Weblog: シネマ親父の“日々是妄言”
Tracked: 2010-10-13 23:58

十三人の刺客
Excerpt:  ヴェネチュア国際映画祭では評判が高かったと聞こえてきたこともあり、『十三人の刺客』を有楽町のTOHOシネマズ日劇で見てきました。 (1)
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2010-10-30 11:23

三池崇史監督 「十三人の刺客」
Excerpt: 工藤栄一監督が1968年に撮った名作「十三人の刺客」を、「ヤッターマン」や「クローズ・ZERO」そして「忍たま乱太郎」等を撮った三池崇史監督がリメイクした2010年の作品 SMAPの稲垣吾郎が残虐な..
Weblog: 映画と読書とタバコは止めないぞ!と思ってましたが……禁煙しました。
Tracked: 2011-09-10 11:41