ルンバ！

　「アイスバーグ」と「ルンバ！」の2本立て。どちらもセリフがほとんどなし。何だかとってもシュールでした。

　「アイスバーグ」は、イヌクティトゥット語を話す最後の人間だというイヌイットの女性が、夫にめぐり合うまでのお話なんだけど、話が始まってずっと映ってるのは、ハンバーグ店で働くフィオナ。
　一人で店にいて一晩中冷凍室に閉じ込められたのに、家族は何も気づかない。朝がくるごとに半分眠ったまま着替える夫ジュリアンの寝ぼけぶりがケッサク。芯から無関心なのじゃなく、寝起きも睡眠もこどもなだけなんだけど、夜にベッドから落としても知らずに寝てて、フィオナは絶望。でも、ひどい目に遭った氷に魅せられるって何で？
　冷凍車に乗ってしまって国境を越えてフランスへ。港で小さな船の船長ルネを見つけるけど、彼女の呼びかけに全く反応しないのに、なんで彼に夢中になるのか、不条理です。
　彼と一緒に氷山を目指すことになるんだけど、そこにジュリアンが追いかけてくる。ジュリアンが船に乗り込んでも、今度は眠りこけてるルネが全然気づかないって、二人は似てるじゃん。救命ボートの中に隠れてかわいそうなジュリアンと、ヨットの先で楽しげなフィオナが可笑しかった。
　三人で立ち回りの末、フィオナだけが氷山にたどり着くんだけど、みんなあの世行きかと思うと、イヌイットの女性が現れ、ルネの顔を叩くと耳が聞えるようになって、カップル成立。さっきまでの三角関係の長い長いてんやわんやは何だったの。

　「ルンバ！」は小学校の先生同士の夫婦の物語で、「アイスバーグ」と役者が同じ。
　最初の場面で、フィオナ（また）が子供に向かって「私の家の犬は米がすきです」の例文をいろいろ変形させ、どこまでも米にこだわるのに吹き出した。そのすぐあと、チャイムが鳴って子供が集団でわ〜って飛び出すと、それに続いて教師の集団が同じようにわ〜って飛び出してきたのも吹き出した。
　でも、二人がルンバの競技会に行く場面から、不穏な感じ。服を忘れて車のなかの着替えは、可笑しいけど、あぶなっかしくて笑えない。帰り道では、自殺志願の男を避けて激突し、フィオナは片足を失くし、ドムは高次脳機能障害になって、記憶を失くすわ、たった今の記憶を保てないわで、職場を首になってしまう。
　病院でドムは、そばにきたフィオナに、コーヒーを入れようとまごまごし、振り向いた瞬間彼女を見てビックリ、の一連を何度も繰り返す。学校では、フィオナは松葉杖をうまくさばけず、めちゃめちゃになって窓から落ちて、子供たちが怖がってたり、ドムは子供と走ってるのを忘れてビアバーに入ったり。可笑しいけど、状況がシビアすぎ。
　あげく、フィオナの義足に火がついて、ドムの混乱のせいであちこちに火がまわって家が丸焼け。これも笑えなかったけど、隣の子供が、残ってるドアのベルをわざわざ押したのは面白かった。ドムが帰り道を忘れ、フィオナのために買ったチョコパンのために、ホームレスに暴行されるとか、何だかとってもシリアス。思い切り笑わせたいと思ってるとは思えないよ。
　ところが、ドムは自殺志願の男に出会い、何とか生きていて、フィオナがすぐそばまでやってくる。微妙にすれちがってお互いに中々気づかないけど、最後はもう一度「初めまして」が始まる。過酷だけど、二人でいれば幸せな日々だろうと想像して、ハッピーエンド。この場面は、何だか温かなプレゼントみたいで、心がジーンとした。
　二人が体育館で完璧なシンクロで床を回ったり、座り込む二人の後ろの壁に、ダンスする二人の影が映る場面とか、ダンスが素敵。ラスト、波の上に踊る二人の幻が悲しくてきれいだった。
　色がポップで、話はシュールでペーソスがあって、笑いのツボが残酷だけど、後味は悪くない独特の世界だった。