2010年12月05日

その街の子ども 劇場版

 広島への出張中の新幹線内、電光掲示板に明日が震災の日だというニュースを見た勇治(森山未来)は、思わず新神戸で降りてしまう。15年ぶりの神戸。車内で見かけたスタイルのいい女の子が先を歩いていて、彼女に眼を留めた先輩が、女の顔を写メで送れとメールしてきた。仕方なく彼女に近づく勇治。美夏(佐藤絵梨子)は、追悼のつどいに参加しようと13年ぶりに帰ってきたのだった。
 同じ神戸出身と分かり、居酒屋で話すうち、震災当時、急に物の値段が上がって困ったという美夏に、勇治は、屋根の修理をしていた父親が大もうけをした話をし、需要と供給を考えると当然のことだ、非難するのは、要領よくいい目をした相手を羨んでいるからだ、といい、傷ついた美夏は居酒屋を飛び出す。だが、二人は一緒にコインロッカーに荷物を入れていて、終電もなくなった夜の街で再び出会う。

 御影に住む祖母の家に荷物を置きに行く美夏に付き合うことになった勇治。暗い夜道を歩きながら、彼は小学生の頃の苦しい記憶を語り出す。父が値段を10倍に吊り上げたせいで、友だちがどんどん離れていった。東京に行ったのも、住んでいられなくなったから。初めの露悪的な態度は、孤立したかつての自分をかばう強がり、孤独の裏返しだったのだろう。大人の都合で傷ついた過去に、やりきれなさがつのっていく。
 一方、美夏は何度も友人の名前を言いかけては口をつぐんでいた。御影から神戸に戻る道で、今度は美夏が震災で亡くなった親友ゆっちへの思いを語る。ゆっちの母も死んで、一人残ったおじさんはどんどんボロボロになっていった、それを見るのが怖かった。自分よりずっといい子だったゆっちがどうして死んでしまったんだろう、不幸の法則が分からない。

 初めに三宮駅前に来た時、二人が見たのは、姿を変えた新しい街の姿だった。だが、長い距離を歩きながら、彼らはそれぞれ、思いもかけない場所に行き当たる。他人にとってはどうということのない風景でも、近づくのが躊躇されるほど、心の傷に触れる場所。忘れようとして忘れていなかった場所。行き道、勇治は当時住んでいた辺りにさしかかり、同級生の家の前で子供がいるらしい様子を見る。そして、美夏は、勇治が神戸に戻るために選んだショートカットの道で、ゆっちのおじさんが住んでいるマンションの近くに来たのだと気づく。自分の意志でなら、きっと来れなかった場所だったろう。事情を知らない者同士だから、偶然ふらふらと行き着いたのだ。そして、その場所に対峙するお互いを支え合うことで、二人は一歩を踏み出していく。

 会いに行くのを躊躇する美夏に、勇治は今行くべきだといい、美夏は夜中なのに一軒だけ灯りをつけているおじさんの家に向かって行った。このまま待っていると約束した勇治は、人気のないグランドで投球ホームをする。ホームランを打ったのに、誰も喜んでくれなかった思い出を上書きするかのよう。そして、戻ってきた美夏はくしゃくしゃの泣き顔のまま、おじさんにもらったゆっちの写真を見せる。
 二人が近づく時、泣いている美夏を勇治が抱きとめるのかと思った。が、二人はただすれ違う。おじさんが手を振っていることに先に気づいたのは勇治。泣き顔を見せることができない美夏に代わって手を振る彼、続けて手を振り出す美夏。遠くを隔てて、手を振り合う姿が胸をうった。

 やっとたどり着いた東遊園地の前で二人は別れる。勇治はまだ参加することができないのだ。来年を約束して握手の手を出した勇治を美夏は抱きしめた。それは感謝であり、励ましであり、同士のしるしなのだろう。二人はともに震災の苦い体験を引きずって生きてきた”その街のこども”。
 美夏がおじさんの家から戻った時の泣き方は子供のようだし、勇治は少年の時のように投球する。子供の頃の聖地の公園に絶対に勇治を入れない美夏は、子供に戻っているかのよう。二人は、傷ついた子供時代の瞬間を、子供に戻ってもう一度生きたのだと思う。
posted by HIROMI at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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