2010年12月09日

マザーウォーター

 京都の静かな川べりで、店をもつ3人の女たち。ウイスキーしか置いていないバーのセツコ(小林聡美)、喫茶店のタカコ(小泉今日子)、豆腐屋のハツミ(市川実日子)。
 セツコの店には、家具工房で働くヤマノハ(加瀬亮)がしょっちゅう水割りを飲みに来るし、タカコの店には、古い銭湯を営むオトメ(光石研)がやって来て、静かに読書しながら時折タカコと言葉を交わす。そのオトメの店には、若いジン(永山絢斗)がアルバイトしていて、客のいない床には赤ん坊のポプラが眠っている。ちょっと歩けば出会うような距離にあるらしい3軒の店の前を、女たちは交互に通り、次第に互いの店に行き来していく。そして、狭い路地を歩いて買い物する、世話焼きな初老のマコト(もたいまさこ)。

 川の流れるかすかな音、グラスの中の氷の音、コーヒーを注ぐ音、豆腐を手ですくう音。さらさら、こぼこぼといろんな水の音が小さく聞え、心地よかった。

 そして、何ともまったりと流れる時間。
 セツコがヤマノハと話す場面が一番多かったように思ったが、二人の会話は、庭がキレイだ、ネコが来た、パンがおいしい、etc・・。他の登場人物たちの会話も、どこまでも取りとめなく、映画ではあり得ないような普通のセリフ。そして、物語も静止してるようで特別には何も起こらい。ヤマノハが職場の先輩に対して抱いていた気持ちを整理できたり、ジンが新しい事態を受け入れたりするが、当人の言葉で説明されるだけ。

 一方、とりとめないように見える会話は、謎かけみたいで、3人とも別の土地から来たようだが、彼女たちの素性に全然触れない。「なぜここに店を開いたの?」「場所に惹かれたのかな」とか、「ハツミさんはどこから来たの?」「こことよく似た場所です」とか。普通なら、具体的な会話になるはずのところだろう。
 そして、さりげなく意味深で箴言のような言葉がいっぱい。「流れているうちに見えてくるものがあるのよ」とか「明日へは大事なものだけもっていく」とか「人はヒトビト進化していくのよね」とか。3人の女性以外の名前も奇妙だし、客がいなさ過ぎの店も現実的じゃないし、赤ん坊が誰かから誰かへ次々と渡っていくのも、ほほえましいけど、本当には起こらないことだろう。普通に見せて、何だか寓話のような話に思えた。

 登場人物たちは、しょっちゅう正面を向いて並んで座り、おいしそうに食事する。買ってすぐ店先で食べる豆腐、セツコの作るカツサンド、マコトがもってきたタマゴサンド。男同士で食べる豆とか丼。マコトが一人で作って食べたかきあげもおいしそうだった。並んで食べることや人がそこにいること自体が重要みたいに、ゆっくりとカメラが留まっていた。

 上賀茂橋近くの川べりとか、白河疎水とか、京都の風景がきれい。祇園かな、と思う場面もあった。鴨川をはさんで西側だと、木屋町付近は、今は観光用の立て札や小奇麗な今風の店が増えてる一方、風俗店紹介所とかが立ち並んで、ビックリとともにげんなり悲しくなる。ずい分姿を変えた京都でも、静かな路地に古い店がある、昔から変わらないロケ地のような場所が健在らしいのがうれしかった。
posted by HIROMI at 22:31| Comment(5) | TrackBack(10) | 日記
この記事へのコメント
TB&コメントありがとうございます。

>普通に見せて、何だか寓話のような話に思えた。

そうなんですよね。
そのさりげなさがとても心地よく感じられました。
Posted by きぐるまん at 2010年12月11日 17:38
きぐるまんさん
お越し下さってありがとうございます。
どこか現実感の薄い、不思議な感じの映画でした。登場人物たちの、互いに踏み込まないゆるやかな関係が、潔くりりしく感じられました。すべてが水の流れのようにさらっとしていましたね。
Posted by HIROMI at 2010年12月11日 20:18
あまりにも日常的なのに、どこか日常からかけはなれた映画でした。こどもは、あんなにごきげんなわけないだろうし、女性がすべてのしがらみを難なく捨てて暮らすのは大変な事だと思います。
だから映画の登場人物たちにあこがれるし、ほんの少しでも彼女たちのように生活できたらな、と思います。
Posted by 日月 at 2010年12月13日 17:42
日月さん
お越し下さってありがとうござます。
「あまりにも日常的なのに、どこか日常からかけはなれた映画」そのとおりだったと思います。お店の様子も子どもをめぐる人たちも、それぞれの関係も、浮世離れしていて、静かな場所でしがらみなく自分らしく生きる、どこか遠い理想郷のようでした。
あんな風にゆっくり、丁寧に日々を味わいたいですね。
Posted by HIROMI at 2010年12月13日 21:34
突然で申しわけありません。現在2010年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票は1/20(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
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Posted by 日本インターネット映画大賞 at 2010年12月21日 15:51
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