2011年07月02日

風吹く良き日 / 鯨とり ナドヤカンダ

 「光州5.11」で一目ぼれしたアン・ソンギの若い頃の作品と知って、「風吹くよき日」(1980)と「鯨とり ナドヤカンダ」(1984)を観に行った。朴大統領による独裁政権が終わった後、韓国映画のニューウェーブとして、大ヒットした作品だそう。

 「風吹くよき日」は、最初、田畑のあとにビルの建つ都会が映り、青年たちが田舎からソウルにやってきたことを現しているが、そのソウルは、土管や建築資材が積まれた原っぱが延々と広がり、夜には暗闇が覆って、街の灯りはぽつぽつとしか見えない。店先も暗く、ソウルには行ったことがないけど、今とは多分全然違う風景。畑だった土地を騙し取られた老人も出てきて、ソウルが今の姿になる以前の、痛みのようなものが感じられた。

 物語は、中華料理店の出前持ちをするトッペ(アン・ソンギ)と、理髪店で洗髪や靴磨きをするチュンシク(イ・ヨンホ)、ホテルで使い走りをするキムナム(キム・ソンチャン)の3人の青年の報われない日々を、生々しくもユーモラスに描いていた。

 チュンシクは、同僚で美人のユ(キム・ボヨン)に思いを寄せているが、病気の父や大勢の兄弟を抱える彼女は、金持ちの高利貸しにしつこく言い寄られ、愛人になってしまう。キムナムは、いつかホテルの経営者になることを夢見ているが、弟の学費に困っていた恋人に、なけなしの金を持ち逃げされてしまう。裏切られて怒る男たちも、彼らを捨てる女たちも、同じように社会の底辺で貧しさにあえいでいる。
 トッペは、出前先で金持ちの令嬢ミョンヒ(ユ・ジイン)と知り合うが、彼女は世界の違ううぶなトッペに興味をもって、気のあるフリをしては突き放し、馬鹿にして、気まぐれでさんざんに振り回す。

 自分が働く店の女主人と先輩の不倫を、トッペは知らないフリをする。亭主がいない間の二人の仲も、成金とユの仲も、よくありそうでどうにも生々しい。その一方、恋人たちはプラトニックで、昔らしいなと思った。
 店を去る後輩や、結局奥さんが現れて追い出された先輩に、わずかな持ち金から餞別を渡すトッペ。仲間同士も、反発し合いながらもいつもどこかで励ましあい、がむしゃらな姿も、温かい絆も、何だかとても懐かしい感じがした。

 3人のつながりは、思わぬことで断ち切られる。チュンシクがユといた成金を殺して収監され、キムナムには召集令状が届いたのだ。一人残されたトッペ。客にも女にも馬鹿にされ、我慢に我慢を重ねてきた彼は、ジムに通ってボクシングに励み、強い相手に何度倒されても、立ち上がって挑み続ける。負けそうだけど、もしかしたらきっと勝つのはトッペだという思いが沸いてくる場面で、映画は終わる。若くてハンサムで、おどおどして大人しいけど、本当は根性のある、ひたむきなトッペから目が離せなかった。


 「鯨とり ナドヤカンダ」も、三人組の物語。
 勉強もできず女性にも相手にされないビョンテ(キム・スチョル)は、家出をしてふらつく街で、風変わりな浮浪者・親分(アン・ソンギ)と出会い、彼につれて行かれた売春宿で、失語症の少女チュンジャ(イ・ミスク)と一夜をともにする。童貞を捨てた相手と一生連れ添うと決めていたビョンテは、チュンジャを助けて故郷に届けようと決心。ビョンテと親分はチュンジャを連れ出し、やくざに追われながらの3人の逃避行が始まる。

 アン・ソンギは、前作とうって変わって磊落で、ふざけた感じの役柄。どうやら大卒らしいが、素性は全然分からない。コートの裏に七つ道具を隠し持ち、盲目のフリをして金をせしめたりするし、やくざにつかまりそうな危機一髪の場面を、何度も何度も彼が救う。物乞いだけど、卑屈などころか、かえって世の中を上から目線で見ていて、無一文なのにいつも余裕。「物乞い節」を歌い踊ると、子供たちがついてきて、戸口ではお布施をもらえる。こののどかさも、時代かなあと思った。

 根性なしだったビョンテは、チュンジャを守るうちにどんどんたくましくなっていく。ついに彼女の故郷の島が目前というところをやくざにつかまってしまうが、殴られても殴られてもあきらめずに食らいついていく。引っ張られていくチュンジャが、ビョンテの必死な姿についに言葉を発するが、その言葉の意外さとビョンテの思いに、やくざがほだされる場面もよかった。でも、こういう「意気に感ず」なんて場面も、今はないだろうな。

 だが、ここでもまた3人には別れがくる。でもそれはさわやか。持つものが何もなくても、希望が胸いっぱいのラストがうれしかった。
posted by HIROMI at 21:35| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
二本ともご覧になったのですね。この二本は私も四半世紀前のソウルで巡り会って、とても感動し、今でも大好きな映画です。韓国映画中、最愛の二本がリバイバル上映され、新しい観客に向かって公開されたのは本当に嬉しい限りです。

特に『風吹く良き日』は私自身もこの27年間、はじめて字幕付きで観たので、今まで疑問だった細部も良く判り、とてもスッキリしました。夜な夜な背負われて恨み言を言いつつ徘徊する謎の老人の末路のシーンはビデオではカットされているので、何でこの人出てくるんだろう?とズッと思っていました・・・。それとポジャンマチャの主人の奥さんの末路もその部分の韓国語が聴き取れず、出奔したのかと今まで誤解していました・・・。

ちょっと気になったのは、チェ・ブラム扮する地上げ・高利貸しのオヤジですが、殺されてはいないのでは?と・・・。カミソリではなかなか死に至りにくいのでないでしょうか。徴兵で軍隊に行くキルナムも『オレが軍隊から帰ってくる頃にチュンシクも娑婆に出られたらいいな』と言います。韓国の徴兵は陸軍が確か2年ぐらいだった(昔はもう少し長かったかな?)ので、それ位で出てこられるかも知れない、と言う程度ですから、多分、傷害事件程度ではないかな、と思う次第です。むしろ、これで『会長様』にユさんが万一捨てられたりすると(会長様の奥さんに別れさせられたり)一家路頭に迷ってしまうのでは、とそれが心配です・・・。
Posted by キューピー林 at 2011年07月08日 14:33
キューピー林さん
お越しくださってありがとうございます。
「風吹く良き日」は、社会の底辺であがきながらも、懸命に生きる若者のエネルギーがあふれていて、林さんがHPで書いていらっしゃるように、全体的にはじめじめした暗い話なのに、元気な気持ちになる映画でした。挫折も希望も、これこそ若者という熱があったし、特に、最後のボクシングの場面は胸を打たれました。
ビデオではカットされていたシーンがあったんですね。今回完全版を観る事ができたのは、幸運だったと思います。何より、今この二つの映画を観れたこと自体が、とても幸運ですよね。
高利貸しの男は、林さんのおっしゃるように死んではいないのかもしれませんね。そうだといいのに、と思って観ていました。ただ、男が死ななくても、この事件のせいで、ユと男との関係は白紙になるのではないでしょうか。でも、そうなったら、ユはお金のことで苦労するし、そうでないなら、望まない関係に苦しむので、どちらにしても可愛そうだなと思います。
Posted by HIROMI at 2011年07月09日 00:47
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