2011年08月04日

どついたるねん / ビリケン

 阪本順治監督の”新世界三部作”の第1作「どついたるねん」と第3作「ビリケン」を観た。

 「どついたるねん」は、瀕死の重傷を負いながらも、リングに復帰しようとするボクサーの物語。
 英治(赤井英和)は、試合でKOされ、手術で奇跡的に命を取り留めたものの、少しの衝撃で頭の接合部が割れてしまうリスクのために、引退を余儀なくされた。世話になったナショナルボクシングジムを飛び出し、バーの経営者(美川憲一)から援助を受け、自分でジムを始めるが、それも上手くいかず、ジムのトレーナーとして雇った佐島(原田芳雄)に、選手としてカムバックしたいと打ち明ける。

 タイトルどおり、英治は荒れてはまわりをどつきまわす。負けた屈辱や戦えない悔しさ。自分の信条どおりに動かない練習生。ナショナルジムのおやじ(麿赤児)も、彼の娘で英治の幼馴染のたか子(相楽晴子)も、英治の両親も、みなとばっちりを受け、周りはいつも大騒ぎ。振り回されては、怒ったり、説教したり、丁々発止が迫力。その中で、たった一人、トレーナーの佐島だけが静かで控えめだが、内に熱をもったたたずまいがかっこよかった。

 英治は、ジムの練習生に対しても、何が何でも接近戦で命がけでやらせようとし、それぞれの個性に合わせて伸ばそうとする佐島と対立。無茶苦茶な押し付けを吼えまくる英治に引いてしまったが、すべてを失くした彼が、復帰の決心を語る場面では、彼は初めからそれだけが望みだったんだ、と納得した。「オレの体のどこを切っても、ボクシングしか出てけえへん。ジムもない、解説者にもなれへん、リングに上がるしかないんや。」

 無理やりに取ったライセンスで、4回戦の試合が決まるが、相手が自分のジムにいた木島だと知ると、プライドが傷ついてやる気をなくす一方で、かつての栄光が忘れられず、テレビ局に手回しして華々しい音楽や放映を取り付ける。どんどん期日が迫るなか、調整と減量に苦しむ様が壮絶だった。だが、佐島との二人三脚のはずが、英治の独りよがりは直らない。練習で頭を狙えと命令し、拒む佐島をクビにしてしまう。
 どこまでもアホな英治。だが、彼が通天閣のエレベーターの中で、突然死の恐怖に襲われる場面は、それでも戦う意地と、リングにしか生きる場所がない男の悲哀が迫ってきた。

 試合の本番、どうしても英治の頭を打てない木島は、ボディーばかりを打って英治を苛立たせる。だが、次第に激しい打ち合いに。そのさなか、英治は突然、幼い頃に、木島にボクシングを教わったことを思い出す。「木島さん、来てるか?」と聞く場面が切なかった。だが、木島の姿は映らない。そして、悔しいような、うれしいような、何ともいいようのない衝撃のラスト。

 佐島が、線路脇の寂しい場所で、小学生にボクシングを教える場面。子供を「つばさ」と呼んでかわいがっていたが、この名前が、「原子力戦争」で原田芳雄演じる坂田が引き離された女の名前と同じだったことが、偶然でないような気がした。


 「ビリケン」は、通天閣に祀られている幸運の神様・ビリケンが大活躍するファンタジー。
 オリンピックの大阪誘致で新世界がスタジアムの建設予定地に選ばれ、危機感を抱いた通天閣の社長(岸部一徳)と専務(南方英二)と部長は、客足を戻し、地域を振興させて計画をはねのけようと、”通天閣の七不思議”をデッチ上げて必死の策に出る。そんな中、長年箱にしまわれていたビリケンが発見され、最上階に飾られることに。そこへ、土地を買い上げようと、企業が説明に訪れ、住民をだまそうとし始める。

 「夜中に音もなくグルっと回る」を実現させるため、東西南北のプラカードをもって走ったり、棒に火の玉をつけて窓から出したり、社長たちの奮闘がめっちゃ笑えた。
 ビリケンはアメリカ生まれの神様だそう。「哀愁」でビビアン・リーが恋人に渡していたお守りがビリケンって、あの場面は本当かしら。

 ご神体から人間の姿のビリケン(杉本哲太)が現れるんだけど、この神様、上にいる時は人から姿が見えるのに、拝んでいる人のそばにたってメモを取ってるのが面白い。奇跡のように拝めば願いがパッとかなうんじゃなくて、ヤクザが小指をもとに戻して欲しいと言えば、小指を捜して夜中に付けたり、ホームレスが競馬で勝ちたいと言えば、馬の鼻先ににんじんをぶら下げて走ったり、社長の腰をもって、精力絶倫のお手伝いまで。それもこれも、自分の力をみんなに知らしめたいからだけど、雨に濡れながら川で入れ歯をさがしたり、けなげな頑張りにホロリとくる。
 ご利益が評判になって、ビリケンの前に行列ができるが、来てる人はみな地元の人。そして、ビリケンが走り回るのも、新世界の界隈だ。

 不審者に思われて、追い出そうとする社長たちとビリケンのバトル。そして、上から目線で丸め込もうとする企業の手先と、一致団結する住民たちとの大バトル。
 串カツ屋やいろんな店のおっちゃんたち、学童保育のこどもたちや先生(山口智子)。貧しいけれど、お金につられたり、仲間割れなど決してしない、きれいな根性がたのもしい。

 新世界の人たちがいっぱい映るけど、昼からピールを飲んで、一人でクダを巻いているおっさん役に、原田芳雄が出ていてびっくりした。「日本の田舎はあかんなあ、ぜんちゃんもしゅうちゃんもいなくなっちまった。かあちゃんが待ってるけど、帰れない。オレも焼肉食いてえ」を繰り返す。映るのは一瞬だけ。こんなチョイ役にオファーする方も、出る方も、すごいなあ、と思ってしまった。
posted by HIROMI at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/47161793

この記事へのトラックバック