2011年08月22日

一枚のハガキ

 上官が引いたクジのために、陸海戦部隊としてフィリピンに送られ、戦死した森川定造(六平直政)。定造を失くした家は困窮し、嫁の友子(大竹しのぶ)は定造の弟の三平(大地泰仁)と再婚するも、彼も戦死し、後を追うように夫の両親も死亡。戦争を恨みながら、野垂れ死にするのを待っていた。
 一方、クジからはずれ、定造に、妻からもらった手紙を託された松山啓太(豊川悦司)は、生き残って故郷に帰ってくるが、あらぬ仲になっていた妻と父親は逃げ、家はもぬけの殻だった。無気力と周囲の中傷に疲れて4年を過ごした啓太は、ブラジルに行こうと思い立ち、整理していた荷物の中に、定造から預かったハガキを見つけ、友子のもとを訪ねて行く。

 定造の家の前に、家族と近所の人たちが並び、警防団長・泉屋吉五郎(大杉漣)の勇ましい挨拶と号令で、軍歌を歌って出発。カメラ位置はそのままで、今度は、白木の箱を抱えた友子を先頭に、しょんぼりした列が画面に入ってくる。警防団長がきまり悪そうにあいさつ。こうなることは分かっているのに、国を挙げて男を戦場に押し出したんだ、馬鹿なことをしてたんだ、と思う。
 友子の二度目の夫の三平も、若い美空で徴兵され、全く同じように出立する。そして、またも同じように、しょんぼりとした列が家の前に。
 二つの場面に続くのは愁嘆場で、二人の死が友子と家族を追い込んでいく悲劇だと分かっていても、勇ましい出立と無言の帰宅のコピーのような繰り返しは、思わず笑ってしまうような滑稽さがあった。大事な命を無駄死にさせて、ケロッとしている戦争の愚かしさ。

 残された家族が貧しさにひしがれ、跡継ぎの必要から嫁が夫の兄弟と再婚させられるのは、当時にはよくあったことかもしれない。舅(柄本明)と姑(倍賞美津子)に頼まれた友子は、冷静を装って承諾し、彼らに優しい言葉をかける。だが、二人に背を向けた瞬間、「定造、なんでわしをおいて死んだんじゃあ」と絶叫。押し殺した感情を、思いもかけない瞬間に爆発させる様は、鬼気迫った。

 仕方がないことだと一緒になった友子と三平だったが、情が通うようになったのもつかの間、またも別れがやってくる。沖縄に向かう直前に帰ってきた三平は、山に逃げたいと告げるが、父親は特高から逃げることはできない、家中が非国民になる、と言って息子を行かせる。定造と友子の別れの場面も悲しかったが、逃げるチャンスをふさいで、帰ってこられないだろう戦地に見送る三平との別れは、胸がふさがるようだった。

 友子の感情の激しさは、啓太が家に訪れた時も同じで、泣きながら床をにじって白木の箱のある部屋の柱まで行き、それから急に思いついたように、「あんたはなんで死なんのじゃ、なんで生きとるんじゃ」となじって慟哭する。観ている方がひるむほどの、究極の悲しみの表現。

 そして、なじられる啓太は、自分だけが生き残ったことへの悔恨と自責を抱いていた。友子がぶつけた疑問は、彼の内に巣くう疑問でもあったのだ。待っていた人が帰って来なかった女と、自分を待ってくれている人がいなかった男。
 冷静さを取り戻した友子は、かいがいしく啓太をもてなし、別れの時がくるのを延ばそう延ばそうとしているようだ。彼女を妾にしたいと思っている吉五郎が因縁をつけ、啓太と吉五郎がケンカを始めた時、それを見ている友子の目は、自分を争う男たちを品定めしているような目。怪我をした啓太を手当てし、またもいよいよの別れがくると、友子は自分もブラジルに行きたいという。野垂れ死にしたいといいつつ、啓太と出会った彼女は、生きる希望を見つけているよう。啓太が彼女を受け入れ、二人で幸せになって欲しいと願わずにいられなかった。

 そして、いざ二人で出発というとき、友子の三度目の狂乱が始まる。炉辺にくべられた白木の箱を見て、急におののき、焼酎をあおって「自分も死にたい」と口走る。骨も入っていず、ただ「英霊」と書かれただけの箱なのに。生から死へ、大きく揺り戻す傷ついた心。その激しさに圧倒された。
 だが、白木の箱とともに燃えてしまった家を前に、啓太は突然、この土地で友子と生きていこうと決心する。それを聞いて泣く友子の絞り出すような声に、またも涙を誘われた。

 労働で鍛えられた力持ちの友子。同じく屈強な啓太。麦畑の向こう、二人が揃って作業する遠景が、静かな希望に輝いて見えた。
posted by HIROMI at 21:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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