2011年09月05日

この愛のために撃て

 二人の男に追われる、傷を負った男。追手たちが男を追い詰め、銃で撃とうとした瞬間、バイクが男を跳ね飛ばし、警官が到着して、二人はあきらめて現場から立ち去った。彼らが何者で、なぜ二人が男を追うのか分からない、緊迫のオープニング。
 そして、男が担ぎこまれた病院で、看護師として働いていたサミュエル(ジル・ルルーシュ)。男の呼吸器をはずした怪しい人物を目撃するが、家で何者かに襲われ、意識を取り戻すと、身重の妻(エレナ・ナディア)の姿はなく、3時間以内に男を病院から連れ出せと脅迫される。

 ここからも、ノンストップのサスペンスとアクションの連続。男が指名手配中の強盗犯・サルテ(ロシュディ・ゼム)と分かり、警官が彼のベッドに張り付いているところ、サミュエルは、レントゲン撮影のためと言って彼のベッドをエレベーターへ。それから警官を失神させ、サルテは覚醒させて、駆けつけた警察と、上司や同僚の目をかいくぐって病院の外へ。バスに乗り、離れかけたサルテを脅して、ようやく妻の顔を見る。ここまでは銃を突きつけていたサミュエルのペース。
 だが、いざ人質交換というところに、またも男たちが現れる。空港内や地下鉄を逃げまわるも、監視カメラで見つけられ、それでも人ごみをかき分けて逃げ、すんでのところで追っ手を振り切る。

 サミュエルがサルテの住居で彼の傷の手当をしていたところに警察が踏み込んでくるが、二人が逮捕されたと思う瞬間、殺人課の女刑事を、ヴェルネール刑事(ジェラール・ランヴァン)が殺害。それまでに、警察内の山争いが描かれるのだが、この瞬間、それだけでない警察の隠された犯罪があらわになる。警官殺しの罪を着せられて殺されかけたところを、一瞬の反撃でのがれるが、サルテが口を割らせた警官から、ヴェルネールたちが仕組んだ恐ろしい陰謀が語られた。

 ようやく妻が監禁されている場所にたどり着くが、妻はどこかに連れ去られたあとで、妻を見張っていたサルテの弟の惨殺死体が残されていた。警察に保護されたはずの妻の身は、ここから最大の危機を迎えてしまう。

 寡黙でミステリアスなサルテ。彼は非常に用心深いと同時に、瞬時の判断を誤らず、万事尽きたかと思う場面を次々とかわしていく。それは繊細さを感じるほどで、病院から脱出したとき、救急車に乗ろうとするサミュエルを制し、バスを選び、車内で銃口に気づいた男の子にそっと微笑んで、安心させる。裏社会に顔がきく彼は、警察の撹乱をマフィアに依頼し、その前夜にヴェルネールの手先の情報屋を殺す。その時も、殺さないでおこうと説得するサミュエルに一瞬耳を貸したフリをして、彼と争わずに意思を貫徹。冷酷だが、その判断のおかげで、二人は時間かせぎに成功した。
 警察内への侵入でも、自分が警官役になろうとするサミュエルに、「顔が善人すぎる」といって自分が警官になりすます。
 ヴェルネールが保管している監視カメラの映像を狙って、彼の部屋に侵入し、戻ってきたヴェルネールに銃を突きつけた場面では、「撃つと自分が殺されるぞ」というヴェルネールの言葉に、ちらちらと視線を外に移すサルテ。撃つかどうかの選択に迷って動揺しているかに思えたが、次の瞬間の彼の判断も、意外かつ的確だった。
 感情を顔に出さないサルテだが、妻を救おうと必死なサミュエルの思いに打たれていたかもしれない。結果的にサルテはサミュエルを支えていく。

 ヤクザも怖いが、権力を握る警察が不正を犯している場合は、証拠の隠滅も、犯人のでっち上げもし放題だから、これほど恐ろしい組織はないだろう。だが、それがヴェルネール率いる一部の犯罪なのが救い。サミュエルとサルテが、彼らにぎりぎりに追い詰められながら、逆に彼らを追い詰めていく姿に胸がすいた。
posted by HIROMI at 22:48| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記
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Weblog: soramove
Tracked: 2011-09-11 22:30